「二二拍手

第四話 式神演舞

「あれと同じ者の仕業です」
「シキガミって奴っすか?」
 たまたま覚えていた単語を日和は披露した。
「式神は道具に過ぎません。式を扱う呪術は陰陽道。古来大陸から渡来した呪術を和人が極めて体系化した呪法です。風水思想を根底とし、木火土金水の地理的方位を主軸とした占術呪法を用いて、万事に対する災厄を防ぎます」
「あっ! オレ映画みたっすよ! アベノセイメイ!」
 日和の浅い知識にあえかは頷いた。
「安倍晴明は平安朝でその実力を朝廷にまで認められた陰陽道の遣い手。彼ほどの陰陽師は今日(こんにち)まで生まれたことはないでしょう。彼は人型の紙に命を吹き込み、鬼を使役し、天変地異すら引き起こしたとされる妖術師。幾多もの伝説が生まれ、戯作者の手により崇高化された容貌(すがた)で一般に広まっていますね」
「そいつが敵だってのか、おもしれえ」
 あぐらをかいた大沢木は、不敵に笑いながら足を必死にこすっていた。しびれがなかなかとれないようだ。
「天変地異を起こすのは神の御技。安倍晴明はひょっとすると八百万の加護すら受けていたのかもしれません。ですが、心配には及びません。現代では、陰陽師の家系は廃れ、昔ほどの力はないでしょうから」
 あえかの顔に僅かな曇りが生まれた。そのことを日和だけが感じ取る。
「大丈夫っすよ! だってこっちには師匠がいるじゃないっすか! 返り討ちっすよ!」
 元気に拳を握りしめる愛弟子に淡い笑みを浮かべ、あえかは日和に言った。
「では、貴方には特別な任務を与えましょう」
「喜んで!」
 あえかは日和の隣にいるみすずを見た。
「貴方に、防人の荷を与えます」
「サキモリ?」
「守り人の意味です。貴方がみすずさんを護るのです」
「え〜!?」
 日和は叫んだ。
「どうせ護るなら、師匠の入浴中だとか睡眠中を見張っている係がいいんすけど」
「それは見張りではありません」
 あえかは日和の願望を一蹴すると、みすずを見た。
「喋っても、良いですね?」
 途端にみすずは怯えた表情になり、首を振った。
「いや――」
「なぜ」
「まだ、知られたくない」
 日和と大沢木は女性二人の奇妙な会話にきょとんとしている。
「貴方のためです」
「いや!」
 激しく拒絶の意志を示すみすずに、あえかは困った様子だ。



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