「二二拍手

第四話 式神演舞

「変じゃ、ないもん」
「いーや、変だね。いつものお前ならオレたちに向かって蔑んだ口調で悪口のラップをきかせてくるくせに」
「ラップなんか歌わないよ」
「オレたちには聞こえるんだよ。お前の悪口雑言が右耳から左耳へ抜けていくときに」
「何それ。馬鹿みたい」
 みすずは少しだけ元気を取り戻して笑った。
「この野郎! また馬鹿にしやがったな!」
「だって、ホントのことだし」
「そうやって他人のこと見下してると、友達できねーからな!」
 みすずは急に黙り込んだ。
 あえかと大沢木もどうしたのかと不思議そうにみすずを見る。
「……友達って、難しいよね。どうやったら作れるんだろう」
「は? 何言ってんだおまえ」
「学級委員にまでなって、みんなから頼りにされるかなって期待したのに、誰もわたしを必要としてない。自分の事ばかりに精一杯で、迷惑かけてばかりなんだから、仕方ないよね。学校にもちゃんと出てないんだから、友達の輪にも入れない。今更、怖くて――」
「なんだ、おまえ、学校サボってんの?」
「サボってなんかない」
「だって、学校にちゃんと出てないって――」
「休みたくて休んでるわけじゃないもん!」
 ぱちぃん! と大きな音が日和の頬に炸裂し、みすずは立ち上がると、靴も履かずに走って出て行った。
「……なんで?」
 頬を押さえて涙を浮かべる日和は、あえかと大沢木を見た。
「たぶん、悪いのはひーちゃんだな」
「ええ? なんでオレ? どっちかっつーと脈絡なく殴られた被害者じゃね?」
「思春期というのは難しいものです。貴方の不用意な一言が、みすずさんの繊細な心を傷つけたのでしょう」
 オレだって思春期の少年なのに。と日和は思った。誰がオレの心の傷を癒してくれるんだろう。
 あえかのほうを見る。
「謝ってきなさい」
 現実は甘くなかった。




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