「二二拍手

第四話 式神演舞

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 今日は師匠の出迎えがなかった。いつもは神社の掃除をしながら、日和に向けて投げかけられる笑顔がないので、いきなり調子がくるう。
 道場へと向かうと、道着姿の師匠がいた。
 その前に正座をした大沢木の姿がある。
「あれ! いっちゃん、今日一番乗りじゃん」
 靴を脱いで玄関口に揃え(こうしないとあえかに怒られる)、靴下を中へと突っ込んだ日和は木の床の上をぺたぺたと裸足で歩いた。
「春日君。よく来ましたね」
 師匠はいつも通りに微笑みを浮かべて挨拶をする。
 大沢木は斜に構えた顔をさらに仏頂面にまで歪めて、ぷるぷると震えながら正座をしていた。
「あの、聞いていいっすか?」
 もちろん、目の前の事態に対する疑問だった。
「その前に、日和君、今日学校はありましたね?」
 師匠の当然の質問に、日和は素直に頷いた。
「はぁ。今日木曜っすよ」
「だそうですよ。大沢木君」
 大沢木は日和に向けて怒ったような顔を向けた。
「えーっと、オレ、何かマズイこと言いました?」
「大沢木君が午後一にこの道場へ来て、修業してくれと」
「へー、いっちゃん、いつの間にそんな熱心になったんだ?」
 大沢木はそっぽを向いた。
「わたしが尋ねると、今日は学校が創立記念日で休みになったから、と答えたのですが、そんな話は春日君から聞いていませんでしたので、貴方が来るまで待っていたのです」
 日和の顔に一抹の汗が垂れる。
 まったく同じ言い訳を、以前日和自身が使ったことがある。そしてその結果、まさにそのときとまったく同じ場面がデジャブとして目の前にある。
 日和はおそるおそる尋ねた。
「あの、午後一から今まで、ひょっとしていっちゃん、ずーっと正座して?」
「はい。それがなにか?」
 素敵な笑顔を浮かべる師匠を見て、ぷるぷると震える大沢木の足を見る。
「す、すまねえいっちゃん! オレが本当のことさえいわなけりゃぁ!」
「……別にひーちゃんのせいじゃねえよ」
「師匠! いっちゃんを解放してやってください! この通りっす!」
 と言って、日和は頭を下げた。
「分かりました。ではこの質問に答えてください」
「なんなりと!」
「今日干していた下着の色は何でしたか?」
「白っす! フリフリの付いたレースのやつ! やっぱり師匠には白が一番似合うっす!!」



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