「二二拍手

第四話 式神演舞

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「委員長に何か変わったところがないかって?」
 日和は東の車椅子を押しながら、尋ねられた質問を繰り返した。
「ああ。最近元気がないみたいに感じないかい?」
「そーか?」
 毎日のように美鈴からクレーム=注意を受けているから、「いつも通りにうるさい女だ」と答える。
「ははは! 日和は委員長と仲が悪いしね」
「そーだよ。あいつ、人のやることなすこといちいち文句つけるんだよ。まるでおふくろみてー」
「ヒヨリがちゃんと掃除とかしてたら、彼女も怒らないと思うよ」
「いーや。きっと他の事で怒るに違いない。だからオレは掃除をわざわざやらんのだ」
「それは言い訳だね」
「よくぞ見破った」
 互いに笑いあうと、生徒会室の前まで辿り着く。
「有り難う」
 東は眩しいくらいの笑顔で日和に礼を言った。
「何言ってんだ。このくらいで」
「いや、感謝してるよ。日和に声をかけて貰わなきゃ、僕はきっと、一人の友達も作れなかっただろうからね」
「なーに言ってんだ。おまえ、クラスの人気者じゃん!」
 東は日和の言葉に微笑を浮かべた。
「少し欠点があるだけで、人間はとても残酷になる」
 車椅子に乗っていると言うだけで、友達づきあいを拒むクラスメイトがいる。足が不自由と言うだけで、厄介者のような目で見る者がいる。人と違うだけで、好奇の目で自分を見る人間がいる。春日日和は、そのうちのどの人間でもなかった。
 普通に友達として接してくれる。
 彼が声をかけてくれたのがきっかけで、他のクラスメイトとも仲良くなれた。副委員長という大役をがむしゃらにこなしているのも、クラスの全員から頼りにされているという自負があるからだった。
「ヒヨリがいなければ、僕の人生はもっと荒んでいたと思う」
「……まぁよ、ヤナ奴はいるよ実際。オレだって、昔はいじめられもしたからな。だから分かるんだ。弱い奴がどんくらいつらいって事がさ」
 照れたように日和は語った。
「なんか暗い話になっちまったな」
「そんなことはないよ」
「あっ、東くん、今日は早いね!」
 生徒会役員の上級生だろう、東を見かけて声をかけてくる。
 日和は手を挙げた。
「じゃ、また明日な!」



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