「二二拍手

第四話 式神演舞

「あの、ごめんなさい。今日も用事があって……」
 副委員長はあはは、と快活に笑い、
「いいよ。僕が出ておくから」
「ごめんなさい……」
 自分のせいで委員会の仕事のほとんどを背負うことになっている彼に美鈴は頭が上がらない。普段「委員長」としてクラスのとりまとめ役を引き受けているものの、放課後や休んだ日のすべての雑務は副委員長である彼が一手に引き受ける。本来委員長と副委員長で二つにわけてこなさなければならない仕事も、副委員長である彼が不平も言わずテキパキとこなすから、運営には何の支障もなかった。成績も優秀で、中学生3年のときに出場した学生論文のディベートでは、準優勝したほどの実力だ。そんな彼に、クラスの女子が気にしないわけがない。
「さすがアズマ様」
「頼れるぅ」
「ホント、南雲さんなんてお飾りみたい」
 このやりとりがあったあと、必ずと言って良いほど、クラスの女子連中から一斉にひんしゅくの眼差しで睨まれる。
 これが嫌だった。
 うなだれた委員長に、東は「気にしなくていいよ」と言った。クラスのひときわぶーたれている女子グループに向かって、声を上げる。
「君たちもいい加減にしてくれないか? 僕が好きでやってることだ。文句が言いたいなら、僕に言って欲しい」
 そして、いつものように女子は引き下がる。たとえ叱られるとはいえ、学年彼氏にしたい候補No.1の東に声をかけて貰うことは、彼女たちにとって嬉しい事らしい。ようは、美鈴をダシにして、東に自分の方を見て貰おうという曲がりに曲がった恋愛行動だ。
 彼女がクラスの女子に溶け込めないのも、この要因が十二分にある。
「それじゃまた」
 そう言って、東は立ち去ろうとした。
「かきーん!!」
 日和は打ち取ったぞうきんボールは多大な空気抵抗を受け、東の顔にぱす、とかかった。
「あっ! 悪い東!!」
 慌てて駆け寄った日和に、顔に乾いたぞうきんをはぎ取った東は、苦笑を浮かべた。
「こんなところで野球はしちゃいけないよ。ヒヨリ」
「わりーわりー」
 クラスの女子からすさまじい非難の声が上がる。
 日和は東から雑巾を受け取ると、「どこまで行くんだ?」と声をかけた。
「生徒会室だよ」
「ならオレが連れてってやるよ」
「助かるよ」
 女子たちのわめき声を無視して雑巾を志村に渡すと、東と昨日夜20:00からやっていたクイズ番組『That’sクイズ』の話をしながら二人で教室を出て行く。
 何の因果か、クラス一モテない男春日日和と学年一モテる東正龍は仲がよい。
 志村たちはバッターがいなくなってしらけたのか、真面目に掃除に取りかかる。
 美鈴は憂鬱な顔で鞄を持つと、一人で教室を出て行った。




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