「二二拍手

第四話 式神演舞

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「やったー! ようやく授業が終わった−!」
 日和は叫ぶと鞄を手に取った。
「待ちなさい!」
 その背に声がかかる。
「今日は春日君たちの班が掃除当番でしょう」
 箒を手にして迫ってくる南雲美鈴に、日和は嫌な顔をして仲間を見た。
 志村、御堂以下数名が、げんなりとした顔をして掃除道具入れからバケツや箒やぞうきんを手にしてめんどくさそうに掃除を始める。
「なんて真面目な奴らだ」
「フツーです! あなたもこの月代高校1−A教室の生徒ならきちんと学生の本分を実行しなさい!」
「ばっかだなー、掃除なんてやったってどうせ汚れるんだぜ? やらないほうがいいじゃんか」
「それは不精者の理屈です。少しは学校の役に立ったらどう?」
 委員長は箒の穂先を日和の顔面に近づけた。まごう事なき嫌がらせだ。
「ふっ。自慢じゃないがオレは部屋の掃除をしたことがない」
「春日君の部屋なんて興味ありません。みんながやってることをやらないほうがずるいて言ってるの!」
 なんかこの前からずいぶん突っかかってくるようになった気がする。
 オレはコイツに何かしたか?
「わぁったよ! やりゃいいんだろ! やってやるよ! グチグチいやがって」
 日和は箒をぶんどると、志村に向かって声をかけた。
「野球しよーぜ!」
「おっ! ヒヨリイイコト言った!」
「おれの稲妻ぞうきんシュートが受けれるか?」
 日和のかけ声に、つまらなそうだった面々が俄然目を輝かせ始める。むろん、教室の美化清掃についてではない。
「男子って馬鹿ばっかり!」
 委員長は怒った顔をして日和にまた文句を言おうと口を開きかけた。
「南雲さん」
「はい?」
 美鈴は声をかけられ、そちらの方向に眼鏡を光らせた。
 端正な顔をした少年が車椅子の車輪を鳴かせて進み出てくる。
「あ、東君」
「今日放課後に生徒会の打ち合わせがあるんだけど、空いているかな」
 東正龍(あずませいりゅう)。1−Aの副委員長をしている。整った顔立ちと大人びた物腰、成績もクラスでトップクラスという彼は、唯一幼い頃に負ったという怪我のせいで、足が不自由で車椅子での移動を余儀なくされている。
 美鈴は彼が苦手だった。



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