「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

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「汝に祝福あれと」
 少女の霊が御言葉の力により、現世の(くびき)を解かれて消えていく。
 あえかは後ろを振り返った。
 闇の中から現われたのは、濃密な闇色の神父服を(まと)った優しげな眼差しの男だった。
「どちらの方ですか?」
「”組織”の人間です。と言われれば、おわかりになりますか?」
 あえかの顔に緊張が走る。
「あなた方とは敵対することとなります。今日はその、お知らせに」
 闇色の神父は帽子を片手で押さえて一礼すると、穏やかな笑みを浮かべた。
「わたしが”総社”の人間であると知っているのですね」
「はい。情報収集はお手のものでして」
 はっはっは。とから笑いする。
「あなた様のお手際、拝見させて頂きました。Miss・Todoroki」
「彼女を――地縛霊をあのような人格にしたのは」
「ワタシです」
 悪びれもせず語るその口調に、あえかは祓串を握りしめた。
「みすずさんを狙っている理由はなんですか?」
「それは言えません」
 神父は唇に指を当てた。
「ふざけるな!」
 あえかは教室が震えるほどに怒鳴り声を上げた。
「今ここで貴方を祓います」
「ワタシは人間です」
「人であれば殴って更正させます!」
「暴力はいけない。それでは過去の過ちを繰り返すことになる」
 アーメン、と神父は呟いた。
「今日は挨拶に来たまでです。この辺で失礼します」
「待ちなさい!」
 あえかが飛び出そうとするより、大沢木のほうが早かった。
「殴って更正すんだろ!」
 握りしめた拳をスカした顔面へとぶち込む。
 神父は手の中の黒い表紙の本――聖書開くと、
「汝動くなかれ」
 と言った。
 ピタリ、と大沢木が右フックを繰り出す直前で停止する。
「また遭いましょう。ジャパニーズ・エクソシスト」
 そう言うと、暗闇の中へと消えていく。
 その暗闇の中から「ぱたん」と音が弾けると、大沢木が腕を振り切り、たたらを踏んだ。



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