「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

 あえかがさらに懐から一枚を取り出し、跳び箱に向けて放った。
 それは日和の前で燃えたぎるの輪となり、次々に飛んでくる跳び箱を消し炭に変えた。
「なんか熱い! 熱いっすよ!?」
 恐怖に目をつむっていた日和は火の輪の真ん中を通り過ぎ、からくも無事切り抜ける。
「すげぇ」
 大沢木はいろいろな意味で吹き出た冷や汗をぬぐいながら、あえかを見る。
 少女はきっ!とあえかに顔を向けた。邪魔な女。やはりコイツが先だ。
 すべての危険物をあえかに向ける。
 その寸前、日和がヘッドスライディングしてみすずの胸に飛び込んだ。
「きゃ!」
 可愛らしい声を上げ、みすずが倒れる。
 空中を飛び回っていた危険物も、動きを止めた。
「この! はなせ変態!」
「ぐおおお!! はなすもんかー!」
 ぐりぐりと自分の頭をみすずの胸に押しつけながら、日和は一生懸命だった。
「はなせっていってんでしょこの馬鹿! 殺すわよ!?」
 榊の葉がみすずの身体に触れる。「ひっ!」と声があがり、少女の霊が僅かにズレてみすずから飛び出した。
 榊は境の木。現世と幽界(かくりょ)に立てられた仕切る神の木。幽体である少女と本体であるみすずがそれぞれあるべきところへ分け隔てる。
 少女が叫びを上げて、みすずから抜け出した。
 あえかの祝詞が完成したのが同時。
「――祓ひ給へ清め給へと申す事の由を天津神国津神八百萬の神等共に聞食せと恐み恐み申す」
 胸元から取り出した最後の一枚を手に、横へと振り切る。
 神聖な気配が爆発的にふくれあがり、波となって周囲を襲った。
 少女の霊が恐怖の色に顔を染めて、その波に引き込まれる。
 そして、沈黙。
 あえかは息をつくと、汗をかいた額をぬぐった。
「よく頑張りました大沢木君」
 注連縄をずっと持ち続け、砕け散る物質の欠片に打たれた大沢木は、擦り傷や切り傷だらけだった。
「なんでもねえよ。このくれえ」
 強がりに、あえかは微笑んでみせる。
 あえかは歩いて行くと、みすずの上にぼんやりと浮かんでいる蒼い影に向けていった。
「気分は如何ですか?」
 少女の霊は悪意の抜けた顔で、恥じらいながら言った。
「ありがとう」
「そう、よかった」
 あえかは少女が消え去る前に、尋ねておかねばならないことがあった。
「貴方をこのようにしたのは誰です?」
 少女は逡巡したあと、口を開きかけた。
「彼は――」
「神は言われた」
 唐突に背後から声が上がった。




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