「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

 ”紙垂”の一つが吹き飛ぶ。
「まずい! 一つじゃ足りねえ!」
 次々飛来する物質が見えない壁にぶつかり壊れていくたび、次々に”紙垂”は雷が落ちたような音をさせて弾け飛ぶ。
 日和はさらにリュックの中から近所のスーパーの値札が付いたままの塩一袋を取り出すと、榊にいっぱいに振りかけて両手に持った。
「ぬおおおおおおおお!!!」
 突っ込んでいってあえかの前に立つと「悪霊退散かァーッ!」と叫んで榊を振った。
 ヒュンッ、と音がして、カッターナイフの刃が床に突き刺さる。
「やっぱ無理かーッ!!」
 日和の考えたオリジナルだった。
「どうしよう! オレもう、他の使い方しらねえよ」
 新参者の日和には、あえかが持ち出してきたほとんどの道具の使い方がわからない。漢数字がたくさん書かれた円盤やら、束になった御札、小型の金槌や、何かの板など、これではただ重い荷物を抱えてきただけのようなものだ。
 あえかは一心不乱に祝詞を唱えている。それもかなり速いペースだ。
「どうしよう。どうしたら師匠を助けられるんだ?」
 日和は悩んだ。
「どうしたら……」
 日和は気づいた。
 飛来物はすべて、あえかを狙ってきている。注連縄を持った大沢木は警戒しているものの、まったく物が降りかかってきてはいない。
 注意はあえか一人に向けられている。
 一か八か。
「うおおおおおおおお!!!」
 日和は叫び声を上げて突進した。
 みすずが気づく前に――
 気づかれた。
 まるでゴミのように(さげす)んだ目を向けると、彫刻刀の刀、三角刀、丸、小丸、切り出し、錐、烏口、曲三角とひとそろいが日和を囲んで襲ってくる。
「あぶねえ日和!」
 大沢木が叫ぶ。
「動くないっちゃん!」
 大沢木が動いたら、あえかの結界が解けてしまう。
 日和はずっと持っていた榊の枝を無我夢中で振り回した。
「うぉぉぉぉ! ナムアミダブツナムアミダブツ!」
 それは祝詞ではありません、と祝詞を唱え続けるあえかが心の内で怒る。
 白衣(びゃくえ)の懐から一枚の札を取り出すと、日和に向けて投げつけた。
 札は日和の背中に付くと、一瞬輝いて光を放った。
 彫刻刀のスピードが減速し、その間に日和が走り抜ける。
 驚いた顔をしたみすずは今度は跳び箱を投げつける。それは空中分解し、七つの四角い輪になると、日和の足を止めるために飛んでいった。



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