「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

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「あはは! やっと身体を手に入れた! あの方のお役に立てる!」
 踊るようにステップを踏みながら、美倉みすずが気違いじみた笑い声を上げている。
 その周りには、家庭科室で自分たちを襲った調理道具一式に、カッターナイフにチョーク、教師が使う三角定規に机や椅子まで一緒になって宙を踊り騒いでいた。
「なんすか!? これ?」
「ポルターガイスト現象――”騒がしい霊”と呼ばれていますが、それらは霊が悪戯に起こす現世への干渉です。ただ、霊の力が強ければ強いほどにその悪戯は度が過ぎて、手のおえないものになります。今のように」
「そう言うことを聞いてるんじゃないっす! なんでみすずが暴れてるんすか!?」
「取憑かれたからです。貴方のように」
 あえかは唇を噛んだ。
「日和君程度ならなんとかなったのですが…」
「て、ていどっすか……?」
 少しだけ傷ついた日和は、夜の教室でくるくるとダンスを踊りつづけるみすずを見て戦慄する。
「彼女は特別です。ひょっとしたら、敵の狙いはこれかも――」
「ごちゃごちゃ言ってねえで片付けようぜ」
 大沢木が一歩を踏み出すと、宙を舞っていた包丁や机や縫い針が一斉に襲いかかってきた。
「わぉ!」
 さすがの大沢木も声を上げ、教室の入り口へと戻ってくる。
「くそっ」
「また来たのね。弱気なお祓い師さん」
 みすずはみすずじゃない声で、あえかに向けて声をかけた。
「せっかく逃がしてあげたのに、今度は生きてないかもね」
 くすり、と笑うみすず。
 日和の目に、あの写真の部屋で出会った少女の姿がダブって見えた。
「今度はそうはいきません」
 毅然とした態度で、あえかは前に進み出た。
 襲いかかってくる文房具を祓串ではじき飛ばし、そのまま床に突き立てる。
 みすずの目の色が変わった。
 自分を取り巻くすべての道具にあえかを狙うよう指示する。
「いっちゃん! これ持ってくれ!」
 日和は下ろしていたリュック中から、麻縄の端を取り出し、大沢木に手渡した。
「引っ張って師匠を囲むんだ!」
「よくわからねえがわかったぜ!」
 大沢木は縄を掴んで駆け出すと、祝詞を唱えるあえかの周りをぐるりと回った。
 麻縄に”紙垂(しで)”がぶら下がった注連縄が簡易の結界を形作る。
 勢いよく飛んできた教壇がまるで壁にぶつかったように、粉々に砕けた。



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