「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

「間違ってるか、それはお前が若いからだ」
 若さのせいにされてしまった。
「世の中の汚い部分を隠されているがゆえに、正直に生きられる。まったくおまえらが羨ましい。だがそれだけ、一度社会にでれば絶望というものに押しつぶされる。昔の――」
 と言ったところで、溝口は口を閉じた。
 窓の外を見ると、唐突に「もう帰れ」と言った。
「おまえの腹にあるDVDと本とで取引だ。このことは、秘密にしておけ」
「あ、はい、いいすよ」
 日和は腹のふくらみを大事そうに抱えて立ち上がった。
「扉を開けたらさっさと帰れ」
 溝口はそう言って、日和を手早く追い出した。
 外の廊下に放り出された日和は、戦利品となった腹の中のイチモツをさする。
「……そいや、オレ、何しに来たんだっけ?」
 遠くから、誰かの駆けてくる足音がする。
 日和は気づいて声をかけた。
「あっ、師匠! それにいっちゃんも!」
「春日君! 今までどこに行っていたのですか!!」
 遭うなりいきなり説教された。
「す、すんません。ちょっとDVDを――」
「みすずさんが大変なんです。その荷物を持ってきてください!」
 そう言うなり、あえかは奥へと駆けだしていく。
 その様子に(ただ)ならぬモノを感じ、背中のリュックを背負い直すと、日和も大沢木とともに後に続いた。
 彼らが立ち去ったあと、溝口が部屋から出てくると、日和たちの去っていった方向を見て、「やれやれ」と呟いた。




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