「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

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「先生、オレ、幽霊見たんすよ!」
「ほう、どんなのだ?」
「黒髪ロングの女の子で、見た目結構お嬢様系なのに実は経験豊富で手取り足取りイロイロ教えてくれそーな、上級生のお姉さんっす!」
「んー」
 溝口は宿直室=自分の部屋を引っかき回し、ゴミ溜のような底から目的のモノを探し当てると、日和に向かって放り投げた。
 ぱしっ、とキャッチした日和がおもてのタイトルを読み上げる。
「女子校生淫乱課外授業ワタシが教えてあ・げ・る……上巻」
「これを使え」
 哀れみの表情を崩さず、溝口は日和の肩を叩いた。
「そう言うのは、日頃から溜めとくものじゃないぞ」
「ちがうっすよ! これじゃないっすよ!」
「なんだ、こっちの方が良いのか?」
 渡された本のタイトルを見る。
「緊縛女子大生――恍惚のあえぎ」
「高1でずいぶんハードだな」
「違うっつってんでしょーが!」
「じゃ返せ」
 腹にこっそりDVDと本を挟み込もうとしていた日和は、突然の返却命令に驚愕の表情を浮かべ、溝口を凝視した。
「ち、違わないっす」
「そうだろ。幽霊なんてモノはこの世にはいないんだぞ。生身の方が良いだろ」
「もちろんっす! それで、この、下巻のほうは……?」
「ああ、それレンタルだから返しておいてくれ」
 日和は情けない顔になって、DVDを溝口のほうに差し出した。
「すごいぞー。あっはっはっは」
 溝口のから笑いに日和の手が止まる。迷ったのは一瞬だった。
 DVDは日和の内側に収まる。
「それにしてもおまえら、こんな時間まで何してるんだ?」
 溝口は万年床でありそうな布団の上にあぐらをかき、眼鏡の奥から日和を見た。「こんな遅くまで残っていては他の先生方が帰れんだろう」
「大丈夫っすよ。ナミヘイから許可もらってるし」
「そういえば言ってたな」
 空き缶に入った数本の巻き煙草の一本を手に取ると、溝口はライターで火をつけて吸い始めた。
 日和は自分の部屋と大して変わらない男物の一人部屋を見回した。コンビニで買ったらしき弁当箱や、つぶれた缶ビール(空き缶)、ウイスキーのボトル、男物の下着などがざっくばらんに散らかってゴミ捨て場で暮らしているようにしか思えない。



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