「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

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 すぅ、と写真を貼り付けた壁から白い影がすり抜けてきて人の形をとると、日和の前で写真と全く同じ形をとった。
 黒髪は透けて向こう側が見えるし、風もないのにたゆたうように揺れている。存在が希薄な証拠だ。現実味がなく肌は病的に蒼白いのに、その表情は悪戯を思いついた小悪魔のように蠱惑的な笑みで彩られている。
 幽霊だ。
「悪霊退散ナンマダブエロイエロイレバサバクタニナムミョーホレンゲキョアッサラームアライクムウーパールーパーゴートゥーヘブンナマムギナマゴメナマタマゴテンニトドケヨコノオモイ!!」
 思いつく限りの経文や聖典を唱えてみる。
 日和が片目を開けると、少女の幽霊は居なくなっていた。
「やった! オレのお祈りが通じた!」
「うふふ」
 耳元で甘い囁きが聞こえる。少女の霊は後ろから抱きつくように日和を包み、愉しそうにクスクス笑った。幽霊のくせに、吐く息が耳を触れて妙な期待に心が揺らぐ。
「柔らかい身体。大きくて熱くて今にもはちきれそう」
 透明な手が日和の胸をなでるように移動し、おへそをくだり、腰を過ぎる――
「うぉ」と声をあげて日和は、慌ててその場から立ち退いた。
「うふふ」と少女は笑みを浮かべ、指先を舌で弄ぶ。写真から受けた印象とは正反対に、卑猥でエロチックな表情だ。
「待て! 話し合おう! そういうことはお父さんとお母さんによく相談してから正式な手順を踏んでからじゃないと」
 なにを言っているんだ、と日和は混乱した頭で自分に拳骨を入れた。オレにはあえか様が居るじゃないか!
「そう? 今の時代ではそんなことはないようだけど」
 少女は足音もさせず床を滑ってくると、唇が触れる寸前まで顔を近づけた。
 純情少年春日日和15歳。頬を赤くして一歩下がる。
 どんっ、とその背が壁に当たった。
「ふふ。初めてなのね。優しくしてあげる」
 近づいてくる少女に向け、日和は叫んだ。
「いやー! 最初はノーマルなのがいいのぉぉぉぉ!!」




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