「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

 堅い床を叩く靴音なんて、するわけがない。
 廊下の曲がり角まであと数メートルまで来て、その歩みがピタリと止まった。
「まずい」
 ぽつりと呟いた一言に、みすずが赤くはれた目を向ける。
「どうしたの? 早く行こうよ」
「逃げるぞ」
 コツ。
 すぐその先に、あえかではない何者かの足音が響く。
 日和は足を引いた。
「きゃっ!」
「わっ!」
 すぐ後ろにいたみすずを巻き込み、尻餅をつく。
「何してんだ!」
「い、いきなりさがるあんたが悪いんじゃない!」
「悪いでいいよ! だから早く」
 コツ。
 日和の目の前を、人影が塞いだ。
 いや、それは人影ではなく――人骨。白い骨を闇に浮かび上がらせた人間の全身骨格が耳障りな音をさせてしゃれこうべを動かした。目玉のない落ちくぼんだ眼窩が、へたり込んだ日和とみすずと見据える。
 みすずが日和の肩にもたれてくる。
「あっコラ! なにを――」
 文句を言った日和の前で、みすずはさらに倒れて日和の腰までずれ落ちてきた。
 気絶している。
「ふざけんなーーーー!!!」
 日和はみすずを背負うと、また腕に抱えて走り始める。彼にとって一番重いのは、みすずよりも背中の荷物のほうだ。
 隠れていた理科準備室を通り過ぎると、その先の教室からニョキリと人の腕が伸びてくる。
「わっ!」声を上げて咄嗟に避けて振り返ると、恐ろしく無表情な顔をした全身裸人間がこちらを見ていた。
 いや、違う。全身のうち半分はまだ教室の中だ。その半分は――
「かそくそーち!!」
 日和は叫ぶとスピードを若干上げて走り始めた。
「シショー! お願い返事してー! 悪い妖怪に食べられるーーー!!!」
 涙と鼻水で不細工な顔をして廊下を走り抜けながら、彼はまた適当な場所へ逃げ込んだ。
 というより、体力が限界なのだった。
 とりあえず気を失ったみすずを床に寝かせ、背負った荷物の中から、あえかがお祓い用に清めた水1.5リットル入りのペットボトルを取り出すと、豪快に喉に流し込む。失った水分を補給し一息ついた彼は、周りを見渡す。



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