「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

「古い家屋ではよくあることです」
 はっはっは。と寒い笑い声を上げる溝口に、あえかとみすずは敵意に満ちた視線を送る。
「春日君。荷物を」
「あっ、はいっす」
 あえかは春日の背中に背負ったリュックを探り、キンチョールと虫除けスプレーを取り出した。
「みすずさん、完全防御でお願いしますわ」
「了解しました! 完全防御ですね
 ぷしゅーっ、と白い煙が周りに立ちこめる。日和と大沢木は、二人でゲホゲホと目鼻口に入り込んでくる白い煙を一生懸命に手で払った。
「任務完了!」
「よく出来ました。みすずさん」
 あえかとみすずは二人でガッツポーズを作った。
「……キンチョールと虫除けスプレーって、ゴキブリに聞くんだっけ?」
「さぁな。当人たちが納得してるからいいんじゃないか?」
 日和と大沢木がコソコソ話をしていると、溝口は薬液だらけで曇った眼鏡を指で拭いて、あえかに声をかける。
「許可があるならもう何も言いませんが、くれぐれもワタシの安眠を妨害なされぬようにお願いしたいですな」
 言いたいことを言った溝口は、また出てきたときと同じように音も立てずに元の部屋の扉を閉じた。
 向こう側から、日和の型がそっくりそのまま起き上がって壁にはめ込まれる。
「さ、行きましょうか」
 あえかは無防備な二人に向かって声をかけた。




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