「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

 あえかは艶然と微笑んだ。
 おどろは眼鏡を指で持ち上げると、「はぁ」と呟いた。
「……巫女が巫女衣装を着ている。それは自然ですな」
「わたしはこちらの校長先生から直々に依頼を受けて、この建物に巣くう(あや)しを鎮めに来ました。疑念があればどうぞご確認ください」
「そちらの三人は?」
 溝口は相手を変えた。
「彼らは、わたしの弟子たちですわ」
「彼らも巫女なので?」
 間の抜けた質問をする溝口に、あえかは呆れた。
「みすずさんはまだしも、春日君や大沢木君には似合わないと思いますわ」
「そうなのか?」
 溝口は倒れている春日に向けて聞いた。
「男の巫女姿なんて見たいと思うっすか?」
 春日も真面目に答えた。
「うむ。一理ある」
 ぽんっ、と手のひらをグーで打ち、溝口は納得したようだった。
「それでは此方から質問をしても宜しいでしょうか?」
「はい。Give&Takeの理論ですな」
 溝口は古文の教師らしくない流暢(りゅうちょう)な英語で返すと、白衣のポケットに手を突っ込んで「なんなりと」と言った。
「貴方はなぜ、こちらにいらっしゃるのですか?」
「それは簡単な質問です。ここがワタシのHomeだからです」
「ここに住んでいらっしゃるんですか?」
「転勤してきてからずっと」
 あえかは首をかしげた。
「……それではなにか、()んでいる間に怖い思いをされたことはないですか?」
「何も」
 溝口はあっけらかんと答えた。
 押し黙るあえか。
「あ、そう言えば」
 溝口は唐突に気づいたようにまた、ぽんっ、と手を叩いた。
「やはり何かあったのですね?」
「近頃大きいネズミがうろついていて困っています。あと、チャバネゴキブリも何匹か見かけました」
「「ゴキブリ」」
 その言葉に大きく反応したのは、あえかとみすずだった。
「そ、それ以外は?」
「何も」
「…………」
 あえかはこわごわと自分の足下を確認する。影が濃くて、その色と同じ奴らの姿は見ることが出来ない。たとえ見れたとしても、それはそれで悲惨ではある。



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