「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

「地縛霊ってなんだよ」
 大沢木が少しの緊張感もなく尋ねる。
「地縛霊とは、その土地で死んだものが未練を持って土地に取り憑き、あやかしの相を成したものです。彼らは土地に入ってきたものを侵入者と見なし、様々な災いを振りかけて相手を追い払い、時には殺そうとします」
「そこが自分の土地だって主張してんのか?
「ええ。土地の権利書も、家賃も支払わず、無断で居着きます。彼らの呪縛は強く、それ故に祓うにはそれ相応の力がいります」
「強制的に立ち退かせんのか?」
「少々語弊がありますが、そうなりますね」
 あえかは微笑んだ。
「彼らだって、憑きたくて土地に居座っているわけではありません。果たせぬ未練が故に土地を離れられない。私たちは、苦痛の鎖を解いてあげるだけなのです」
 あえかの言葉に、大沢木は「ふーん」と頷いただけだった。
「貴方に取り憑いた狗神の霊もいわば土地に呪縛されている分、その一つかもしれません」
「本当にそんなもん、俺に取り憑いているのか?」
「ええ」
「いまだに信じられねーな」
「その首にある、輪が証拠ですわ」
 金剛の鎮魂の法により、狗神は大沢木の中に封じ込めてある。その代償として、彼の首には細い輪――錫杖の車輪が片時も離れず取り付いている。ある種のファッションみたいだと、大沢木が気に入っているのが、まだ救いだろう。
「この輪っか、どうやったってとれねえんだよ」
 大沢木は首と輪っかの隙間に指を入れ、ぐいぐいと引っ張るが、首が締め付けられるばかりで自分が痛いだけだ。
「それを解くのは無理でしょう。金剛様でもなければ」
 大沢木の首輪を見ながら、あえかはふと思った。
 金剛は首輪は外れないと言った。それは、外せないのではなく、外せば彼の身に何かが起こるから、外すことを避けたのではないか。
「風呂入るときくらいには、外したいんだけどよ」
 あえかは。苦笑した。
「……時期が来ればその鎖も外せるでしょう。今はそのときではない。それだけのこと」
 あえかは自分の言葉に自身で納得をつけた。
「そういや師匠。オレ、思い出したことがあるんすよ」
 日和の言葉に、あえかは先をうながす。
「この旧校舎にはね、一人、とんでもないのが取憑いてるんすよ」
「霊に心当たりが?」
 驚くあえかに、日和は「うーん、どっすかね」と要領を得ない。
「俺たちクラスの間じゃ、”旧校舎の妖怪おどろ”って、呼んでるんですけどね」
「妖怪? それだとわたしの担当外なのですが……」



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