「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

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 中は暗かった。
 背中を悪寒が駆け巡り、それが止まらない。
 日和はぶるぶると真冬のように震えながら、前を行く師匠の背中を見た。
 凛々(りり)しく真っ直ぐ前を歩く師匠の姿がある。その姿を見るだけで、日和はほっとした。師匠が居れば安心だ。師匠が居れば大丈夫。次第に震えも収まってくる。
 霊感の強いせいで、人よりもひどく霊障を受ける。なんでもない林の中で気絶していたこともある。人にとってなんでもない場所が、彼にとっては命を奪うほど危険な場所だった。あとでその林の中に、連続殺人犯の犠牲になった幼児が発見された。
 過敏であると言うことは、悪霊にとって絶好の餌でもある。生前に晴らせなかった恨みを霊感の高い人間――霊媒体質の人間に取り憑き、復讐を果たそうとする。恨みが濃ければ濃いほどに、その影響は日和を苦しめる。彼らにも同情の余地はある。だが、日和にはその責はない。それでも、彼らは自分を苦しめた。
 だが、あえかに遭うことによって、悪夢のような世界が変わった。ひどい霊障で気を失うこともなくなった。師匠が自分の側に居てくれる。それだけで、恐怖が自然と消滅した。それほどに、師匠は素晴らしい人なのだ。
 それとチチも。
 大沢木が歩いている。もともと神経が太いのか、平然としてあえかに並んでいた。羨ましい限りだと思った。彼は、師匠の背中がなければどうしようもないといのに。
 みすずを見た。
 肩が震えている。
 ひょっとしたら。
「おまえ、怖いのか?」
 日和はみすずの横に並び、声をかけた。びくっ、と反応し、蒼白な顔をしたみすずと目が合う。今にも泣きだしそうだった。
「なんで付いてきたんだよ」
「だって……だって、一人だけいかないなんて……なかまはずれは、いや」
 春日ははぁ、と息を吐いた。ここは男を見せてやる。
「手ぇだせ」
「?」わけがわからない様子でぽけっ、と日和の手を見る。
「つないでやるよ。少しは気が紛れるだろ」
 怒ったように左手を突き出す。
 おずおずと、みすずは日和の手を取った。
「……ヘンなこと、しないでよ」
 軽口がたたけるなら十分だ。
「しねーよ。するなら師匠だけだ!」
 きっぱりいいきると、「ばか」馬鹿にされた。
「とても強い地縛霊のようです」
 あえかは慎重に歩を進めながら言った。手には神札と白木で作られた祓串(はらいぐし)を握っている。
「はぐれないように注意してください」



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