「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

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 旧校舎。
 そこは、整然と建てられ、学生たちの毎日の清掃により小綺麗に整備された校舎とは違う。
 老朽化した建築材。割られた幾つもの窓。夕焼けの明かりさえ届かない教室。枯れ果てた樹木にとまる黒い鴉の群れ。目の前を通り過ぎる黒猫の親子が3匹……。
 日和はすでに不安を隠しきれなかった。
 彼の背中には、あえかが必要と判断し、厳選したお祓い道具一式が詰め込まれている。入りきらずに飛び出した榊の木のサワサワという葉のこすれ合う音を聞きながら、オレは間違った選択をしたのかもしれない。と、すでに後悔し始めていた。
 みすずと大沢木は荷物も持たず、手ぶらで旧校舎を見上げている。
 日和は今更ながらに思った。
「おまえら! 半分くらい持てよ!」
「えー。あたし、(はし)より重いモノ持ったことないしぃ」
「そういうあからさまな嘘をつく奴には全部もたせるぞ」
「あたし、アイドルだしぃ」
「背負え」
 大沢木は日和に声をかける。
「ひーちゃん、重いなら持ってやろうか?」
「いっちゃん、おまえはやっぱいいやつだよ……みすずは嫌な女だ」
「なによー!!」
 あえかは三人をみながら、校長に声をかけた。
「ここに、悪霊が出るというのですね?」
「はい」
 あえかの霊感も、この旧校舎には強い気配を感じとっている。
「わかりました。それでは、今から除祓(じょふつ)の作業に入ります。春日君、荷物は貴方が持ちなさい」
 がーん、と打ちひしがれた日和を捨て置き、あえかは中に入った。続いてみすず、そして大沢木に慰められながら、日和が最後に入る。
「それでは、よろしくお願いします」
 深々と校長が頭を下げる。
 彼らの気配が消えたあと、キィ、という車輪の回る音とともに、人の気配が現われる。
 人影は校長に向けて何事かを唱えると、手を突き出した。その瞬間、校長の背広の中から、紙切れが飛び出し、空中で四散する。
 はっ、と気づいたように校長は周りを見回す。
「わたしは一体」
「校長先生」
 車椅子の少年が、自分に声をかける。
「キミは――(あずま)君だったか」
 全校生徒の名前までは覚えていないが、学内の優秀な生徒の名前は記憶している。彼は、中学時代に学生論文の発表会で準優勝を飾り、推薦入学してきた我が校の優秀生徒だ。成績優秀、容姿端麗。だが、唯一足の怪我で車椅子を余儀なくされていることが不憫だった。
「遠出をしたらこんなところにまで来てしまいました」
「そうか。なら一緒に校門まで行こう」
 そう言ってから、自分はなんのためにここに来たんだったか? と、いぶかしんだ。考えながらも車椅子の取っ手を掴んで生徒を送っていく。
 その生徒の顔には、酷薄な笑みが刻まれていた。




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