「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

 あえかは冷静に生意気な弟子を(さと)そうとするが、大沢木はいつものように啖呵を切った。
「へっ、今日こそその減らず口をコテンパンにのしてやるぜ」
「いっつもそう言ってやられてるくせにぃ」
「なんだとコラ」
 みすずは日和の背に隠れると、後ろから舌を出した。
「ちょっと待て! 何でオレの後ろに隠れる!?」
「あんた男でしょ! か弱い女性を守りなさいよ!」
「師匠ならまだしも、なんでおまえみたいな生意気女を守らなきゃいけねえんだよ! のし(・・)つけて辞退させてもらう!」
「あえかさん、こんな事言ってますけどぉ」
「あっ! 馬鹿! なぜ師匠にそういうことを言う!」
 あえかはまたため息を吐き、(うれ)えた眼差しで外を見た。
「あら」
 その表情に驚きが加わる。
 窓の外にいた中年の男は、開きっぱなしの道場の玄関まで歩いてくると、かぶっていた帽子を取ってぺこりとお辞儀する。
「お客様かしら」
 立ち上がったあえかの背に、日和の驚きの声がかかる。
「あれ、校長じゃん」
「あっ、ほんとだ」
 頭に一本だけ毛の生えた校長は、英国紳士のかぶるような山高帽でその頭頂部を隠すと、彼らに向けて恵比寿のような笑みを浮かべた。




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