「二二拍手

三話 旧校舎の妖怪おどろ

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「ではまず、『真心錬気道』の心得から始めましょう」
 正座したあえかの前には、3人の弟子が黙して座っている。
「『真心錬気道』は気の構え。心を落ち着かせて平常を常とし、決して心乱すことがあってはなりません。神の依り代となるためには、いついかなる時も心構えを崩してはなりません。身体は心を移す鏡。身体を鍛えれば心を鍛えることに同じ。気の緩みは身体に隙を作ります。隙は病魔の取り憑かれる糸口となり、そしてまた、心に還ります。すべては円環で形成され、相互に影響する。くれぐれもひとたびの気の緩みの成さぬよう、精進なさい」
「「はい!」」
 みすずと日和がそろって元気よく返事する。
 大沢木はぶすりとむくれ、あぐらをかいて座っている。
「良い返事です。素直であるというのは心がひたむきであること。ひたむきであるのは、簡単なことではありません。心を開き、相手を受け入れ、自己の昇華に努める。成すべき事を悟り、あまたある誘惑に屈せず、心身の高まりのみを究極とする。他者の申すことなどいかばかりでしょう。信ずる心さえあれば、障害は何者でもありません。その心を忘れぬように」
「「はい!」」
「……お師()さんヨォ」
 大沢木が口を開く。
「はい。何か?」
「いい加減そのくだらねえ理屈をやめて、俺と対戦してくれよ」
 そういって、彼は立ち上がると拳を前に突き出した。
「今日こそは、あんたに勝つぜ。俺は」
「貴方はわたしの弟子なのです。勝手な発言は許しません」
「許さねえならどうするんだ?」
 不敵に笑う大沢木に、あえかはほぅ、とため息をつく。
「貴方もいい加減に落ち着いたらどうですか?」
「落ち着く? 何をかわからねえな」
 日和たちのように道着を着ているわけではなく、大沢木は学生服のまま教えを受けている。
「強さってのは、相手を(たお)してナンボだろ? 俺はあんたを斃してとっととこの道場を出て行く」
「いっちゃん!」
 日和は立ち上がった。
「それはいい考えだ!!」
「黙っていなさい」
 師匠に怒られ、日和はうなだれて正座に戻る。
「あなたは自分の能力を過信しています。すべては繋がり、円環を為す一部。一人で生きているなど、幻想に過ぎません」



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