「二二拍手

二話 狂犬騒乱

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 翌日。
 道場に着いた日和は、大沢木を囲んで悩んでいる金剛とあえかをみかけた。
「いっちゃん! 元気になったのか?」
「ああ、心配かけちまったな、日和」
 元の優しげな目を取り戻した親友を見て、日和は嬉しくなった。
「師匠、と金剛サン、どうしたんですか?」
「いや、何」
 金剛はしきりに首をひねり、あえかに困った目を向けた。
 あえかも困ったように目を伏せる。
(師匠の困った顔もお美しい)
「狗神を祓おうと思ったのですが……」
 あえかは手に持ったお払い棒を掲げて、細い息を吐いた。
「祓えないのです」
「祓えない?」
「うむ。魂との癒着が大きすぎてな。ワシ等ではどうしようもない」
「でも、元気じゃないすか。いっちゃん」
「ひーちゃん、そうなんだよ。早く解放してくれねえかな。おふくろが心配するんだ」
「電話入れたのか?」
「ああ、朝一によ」
 照れたように、大沢木は言った。
「このまま様子を見るしかありませんね」
「そうじゃな」
「大沢木君。本日より貴方も、この道場へきなさい」
 日和と大沢木はそろって声を上げた。
「「はぁ!?」」
祓魔(ふつま)の法がわかるまでは、経過を見ることにします。ただぼうっとしているのもつまらないでしょうから、貴方も『真心錬気道』を習ってみるのは如何でしょう。きっと良い経験になりますよ」
「ちょ、ちょっと待った師匠! おかしい、それはおかしっすよ? ここの門弟になるには厳しい試験が……、それに、大沢木君だってそんないきなり」
「いいぜ。あんたにゃちょっと興味がある」
 日和は全身セメントと化したかのように固まった。
「良いでしょう。ならば今日から」
「待て! いっちゃん、思い直せ! これ以上人が増えたらオレの当初の目論見が! 未来予想図が! あえか様のチチが! 遠ざかってしまうだろう!」
「春日君は黙ってなさい」
「いーや師匠、言わせてもらいますよ。俺がどれだけの覚悟でこの道に入ってきたか」
「やっほー、おっまたせ」
 美倉みすずが明るく入ってくる。



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