「二二拍手

二話 狂犬騒乱

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「狗神?」
「ええ。狐憑きだとか獣憑きという呪詛の一種です。大沢木君には、その才能があったようですね」
 あえかは好きな緑茶をすすりながら、日和に向かって説明した。
「イヌガミ家の一族」
「……まぁ、代々狗神憑きの家は嫌われ、蔑まれる対象となっていました。主の願いをかなえるために不貞を働く輩として、祟り神ともされていますね。壊された社には昔、忠節で知られた犬の魂が祭られていたようです。彼の執拗な怨念に呼応し、取り憑いたのでしょう」
「いっちゃんは、助かるんですか?」
 日和の心配はそれだけだった。
 道場まで帰ってきたが、ひとつも目を覚ます気配がない。このまま目を覚まさないんじゃないかと心配になった。
「たぶん、大丈夫だと思います」
 あえかにしては珍しく、はっきりしない物言いだった。
「明日、金剛様と相談してみます。貴方は家にお帰りなさい」
 そういうあえかに見送られ、日和はからすま神社を後にした。




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