「二二拍手

二話 狂犬騒乱

 札を取り出したあえかは、ぐずる日和をなだめて札を取り出した。
「手伝います! 和尚!」
「すまぬ!」
 そういって、あえかは少年に狙いを定める。
 その目を見た少年が、引きつるような声を上げる。
「ひっ!」
 それは反射的な行為だった。あえかに銃を向け、引き金を引く。
 ぼん!
 爆発が起こった。
 何事かと目をむく一堂の前で、暴発した黒焦げの銃が少年の腕からゴトリと落ちる。
 黒い炭のように焦げ付き、炭化した腕の皮膚がぼろぼろとはがれ、赤い水が噴出す。
「腕が痛い! 痛いよゥ! ママぁ」
 涙を流して自分の腕を見て嘆く少年に、あえかの放った札が飛ぶ。
 その札は眉間へと吸い込まれ、仕込まれていた針はまっすぐに脳みそを前から後ろへ打ち抜いた。
 少年はわずかに身じろぎすると、だらしなく口をあけて後ろ向きに倒れる。
「何を!」
 目を見張る金剛に向け、あえかは不遜な笑みを向け、逃げ出した。
「春日! その女を捕らえろ!」
「えっ!」
 言われた春日はあえかを見て、キラリと目を光らせた。
「そのチチもらったァ!!!」
 俊敏な獣のように日和はあえかに飛びついた。初めて女性の胸に触れる。しかも頬にダイレクトだ。
「これは事故だ! 事故なんです! だから怒らないでつかーさい!!」
(柔らかい。なんて柔らかいんだ。まるで羽毛布団のような――)
 突然掴んでいた腰がなくなった。
「あれ?」
 ゴン、と日和は頭を床に打ち付けると、雄たけびをあけて転げまわる。
「俺のチチ! 俺のチチはどこにいったー!!!!」
 はらりとその脇に、人型に切られた紙が落ちてくる。
「おのれ! やられた!」
 金剛は激怒した。もう少しで手がかりがつかめたものを!!
 怒りのままに、噛み付いた獣を振り回し、投げ捨てた。
 ずぅん、と教室が大きく揺れる。
「おい! しっかりせい!」
 金剛は後ろの少年に向き直ると、その傷を見た。
 致命傷だ。
 一撃で眉間が貫かれ、絶命している。
 ここまでの苦労が無に帰す事実に失望し、金剛の輝きが衰える。
「オッサン! アブない!」



Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.