「二二拍手

二話 狂犬騒乱

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 顔をかばってガラスの張られた窓へ突っ込み、床を数回転して壁にぶつかる。
 巨体を素早く立ち上げ、金剛は状況を把握する。
 子供が一人。獣が一匹。見知った顔が一つ。
「何をしておるのじゃ? オヌシ」
 腰の抜けている日和を見ると、金剛は普段の調子に戻って言った。
「こ、金剛サン、助けて!!」
 錯乱している日和は床に手をついたままものすごいスピードで金剛の元へ辿り着くと、後ろに回って顔を出す。
「い、いっちゃんがバケモノに!!」
「夢でも見たのではないか?」
 あえかの報告から聞いている。大沢木という少年は、祖霊に憑かれた状態のはずだ。
「ゆ、夢じゃねえよ! そこにホンモノがあるじゃんか!」
 日和の指さす方向にいる巨大な獣を見て、金剛は「ふむ」と頷いた。
「あれは犬じゃな」
「イヌじゃねーよ! セントバーナードでもあんなでかくねーよ!!」
「いや、あれは犬じゃ。犬の祖霊が憑いておる」
 金剛は錫杖を手に持ち、一度シャン…、と鳴らした。
 黒い獣が反応し、首を此方に向ける。
「これは大物じゃわい」
 嬉しそうに金剛は言った。
「オオモノ過ぎるわ! やべーよ! 喰われちまうよオッサン!」
「うむ。喰うなら年寄りより若くぴちぴちした方がよいわの」
「オレが先!?」
「旨かろうて」
 錫杖を横に構えると、指を二本立てて念仏を唱え始める。
「待ってー!! そんなに早く諦めないでー!!」
「五月蠅いわい! 黙っとれ」
「鳴り物入りだね。お呼びじゃないよ。ハゲのオッサン」
 少年が教壇から飛び降り、犬に向けて銃口を向ける。
「邪魔するなよ。ボクと彼との戦闘なんだ」
 そう言うと、不意打ちよろしく弾丸を撃ち込む。
 獣は素早く地を蹴ると、机の上に飛び上がって難を逃れた。
「早いね。さすが畜生だ」
 続け様に2発、3発。
 ことごとく避けられ、少年の顔から余裕が消える。
 獣が人似た笑みを浮かべた。馬鹿にしている。
「コイツ……!」
 少年はムキになって、残弾を発射した。
「くそっ! 当たらないじゃないか! 不良品!!」



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