「二二拍手

二話 狂犬騒乱

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 遅かった。
 あえかは歯がみした。
「金剛様!!」
「応!」
 普段はのらりくらりと二足歩行すら危うい和尚も、このときばかりは袈裟の裾をまくり上げて駆けつける。大根のような足の下には若者向けのバスケットシューズを履いていた。似合わないことこの上ない。
 昨日の神無しの社に不審をもったあえかは、亀占を用いて祖霊の行き先を見いだし、それが日和の友人の大沢木に取り憑いている事を知った。すぐに取り除かねば命に関わる。彼の行方を探ろうとしたが何かに邪魔されてなしえず、仕方なく日和を待っていたところ、別ルートで調べを進めていた金剛があらたな情報を持ってきた。
 どうやら敵の一人が廃校となった中学校を根城にしているらしい。
 そして、それが大沢木の捜している”銃を武器とする学生”であることはわかっている。
 昨日の様子では、大沢木はまだ彼を狙っている可能性が高い。金剛と同行し、あえかは旧晴嵐中学へと向かった。
 廃屋と成り果てた校舎に辿り着き、聞こえてきた獣の声に耳を澄ます。
「先にゆくぞ”舞姫”!」
 金剛は上を向くと、「憤ッ」と手にもつ長い錫杖で地面を踏みつけ、棒高跳びの要領で二階へと飛び込んだ。
 あえかは廊下を走り、二階への階段を捜す。夜の校舎に冷たい靴音を響かせ、暗闇を幾つも通り抜けても目指すものは見あたらない。
「?」
 あえかは足を止めた。長い黒髪がふわりと前進し、華奢な肩をやさしく包み込む。
 心を静め、目を閉じて気配を探る。
 物音一つしない。と、いうより、人の気配がない。漆黒の窓には闇が降り、耳に痛いほどの静寂があたりを包んでいる。
 油断しました。と、あえかは独白した。
 彼女は、式符の領域に囚われていた。




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