「二二拍手

二話 狂犬騒乱

「いっちゃん!」
 暗くなってしまった部屋ではよく見えなかったが、間違いなく大沢木の声だった。
「あーあ、来ちゃったんだ」
 来たばかりの待ち人に照準を合わせ、嬉しそうに少年は言った。
「危なかったね。ギリギリセーフ。キミの友達の脳みそ、ぐちゃぐちゃになっちゃうところだったよ」
「やりたきゃやれよ」
「え?」
 日和が声を上げる。
「あ、そ。じゃ」
 少年は見ることもなく、外したばかりの場所へ素早くポイントし、引き金を引く。
 狙いは正確だった。
 ズドン、と命中した先に、日和の姿はない。
「あれ?」
 不思議そうな顔の横を、日和を抱えた大沢木が通り過ぎる。
「おまえはもう帰れ」
 巻き付いたロープを爪の先で弾くと、まるでスパゲティみたいにぱらぱらとほどけて床に落ちる。
「ここにいると、おまえまで巻き込む」
「何言ってんだ! いっちゃん逃げるぞ! 相手は銃持ってるんだぜ?」
「関係ねえ」
 にたりと笑った友人の顔が、日和にはとても人間には思えなかった。
「逃がしはしないよ。君たちはボクが狩るんだ」
「違うな。狩るのはオレだ」
 声をかけようとした日和の前で、大沢木の身体が膨らんでいく。
 肩が盛り上がり、足が太くなり、顔が人の骨格とは別のものに変形していく。
 毛が生えて、四肢が床に張り付き、突き出した顎からは大量のよだれがびたびたと床を汚した。
 ガあああああああああああああ!!
 異形の狼が吠えた。




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