「二二拍手

二話 狂犬騒乱

 楽しそうに語る少年の目は、子供のように澄んでいる。
 だが、違う。と思った。子供はここまで無邪気に他人に害をなす者だろうか。
「いっちゃんの家はおふくろさんしかいねえんだぞ!? もし当たって怪我でもしたらどうする気だ?」
「いったーい! って感じ? あはは」
「おまえ! ふざけんなよ!」
 日和が立ち上がろうとすると、少年は素早く銃口を向けた。
「動かないでよ。まだ、生きていたいんだよね」
 どこかが欠けてやがる。日和は戦慄した。純粋な子供の酷薄さ。蟻やバッタを踏みつぶすように、同じ人間すらも自分と同類とは見なしていない。言葉が通じるだけ(・・)の踏みつぶす対象。自分以外を生きている対象とは認めていない傲慢さが、そこにはあった。
「アイツの仕業だろ、ボクの玩具を壊したの」
「オモチャ?」
「そう、ボクが連れてきた珍走団の馬鹿ども。恨みがあるって言ってたから、利用してやったんだ。それが、あんな仕返しされたから、全員ビビって逃げ出しちゃった。情けないったらありゃしない。あれでボクより年が上って、マジ馬鹿じゃないの?」
 今朝の新聞記事。
「……あれ、いっちゃんの仕業だってのか?」
「『いっちゃん』だって! はは! かっこ悪!」
 少年の笑いにさすがに日和はむっとしたが、その目が笑っていないことに気づいて背中に冷たいものが走る。
「その友達ヅラした呼び方やめなよ。クッサイな」
「おまえに指図されるいわれは――」
 ズドン、と足下に穴が開く。
「無いでございますワ」
 日和は両足を出来るだけ高く掲げて言った。
「あはは! なにそのカッコ! サイコー!」
「ぐぬぬぬ……くそ」
「友達なんかいらないよ。力さえあればいい」
 少年は銃を目の前に掲げて、自分に言い聞かせるように呟く。
「勉強だって一番。成績だって一番。近寄ってくるのはハイエナみたいな奴らばかりだ。ボクの威光に授かろうと、下心見え見えで近づいてくる。そんな奴らは友達じゃない」
 あどけなかった少年の顔が、急に老けた老人のように影が濃くなる。
「自分より弱いからって脅す奴らも最低だ。そんなに金がほしいなら、銀行でも襲えばいい。自分より弱いヤツからしか奪えないなんて、卑怯なやつらばかりだ」
 少年は銃口を日和の額にポイントし、引き金に手をかけた。
「お兄サンみたいな人は嫌いじゃないけど、アイツの友達なら仕方ないよね。タイムリミットも終わっちゃったし、バイバイ」
「待ちな」
 壊れて外された教室の出入り口に影が差す。
「そいつを放せ」



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