「二二拍手

二話 狂犬騒乱

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 授業が終わると、日和はからすま神社へと一直線に自転車を漕いでいた。
 大沢木がおかしい。生身の人間が三階から飛び降りて無事でいるなんて漫画の世界だ。いくら喧嘩百段とはいえ、怪我の一つ位するだろう。そうじゃないと飛び降り自殺なんてものは成立しない。
 彼の知る限り、こんな常識外れの問題を解決できる人物は、一人しか思い当たらなかった。
 師匠に相談して、早くいっちゃんを止めなければ。
 とても恐ろしいことが起こる。そんな気がしてならなかった。
 信号無視して横断歩道を突っ切り、角を曲がった。目の前に人が立っている。
「わっ!」と声を上げ、反射的にブレーキを引く。急激な反動で後輪が浮き上がり、踏ん張って倒れるのを防ぐ。
 がくん、とタイヤは無事地面に着地し、ため込んだ息を吐き出す。
 目の前の人に尋ねる。
「だいじょうぶ――」
「動かないでね」
 少年の声だった。声と一緒に、冷たい金属の先が脇に押しつけられる。
 目を落とすと、ゴリッ、とした鈍色に光るモデルガンの銃口が自分の脇に当てられている。
「な、なんの冗談?」
「偽物じゃないよ」
 いつの間に移動したのか、少年は自転車に乗る日和を横にいて、天使のようにあどけない笑みを浮かべている。
「今サァ、厄介なことになってるんだ。お兄サン、協力してよ」
「きょ、協力? なんのこと?」
「友達なんでしょ? アイツの。じゃぁ、人質くらいの価値はあるよね」
 少年はそう言うと、粗雑なつくりのモデルガンの銃口を真上に向けた。華奢な指が撃鉄を下げると真鍮製の銃身に彫り込まれた茨が踊り、回転式の弾倉がカチャリと次弾を装填する。
 ズドン、と派手な音がして、その先から煙があがった。
 呆気にとられた日和の前に、ボトリと鴉が落ちてくる。羽根を撃ち抜かれた、ギャアギャアと騒がしく哭く鴉の悲鳴が、少年の手の中の真実を告げていた。
「ついてきてくれる?」
 変わらない天使の笑顔で、少年は脅迫した。




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