「二二拍手

二話 狂犬騒乱

 顔を向けられた委員長は、びくっ、と肩をふるわせ、硬直した。
 委員長に続き、春日も親友の元に駆けつける。
「どうしたんだよそのカッコ!?」
「何か用か?」
 彼の着ている服には、生々しく乾いた血の跡が大量に張り付いていた。それが偽物でないことを証明するかのように、鼻の曲がるような生臭い臭いが彼を取り巻いている。
「だ、大丈夫か? 昨日奴らにやられた怪我か? 保健室に行こう!」
「うるせーな。邪魔をするなよ。折角サイコーの気分なのによ」
 鋭い犬歯をむき出し、笑う表情には、どこか人間離れした気性を感じる。
「ぜんっぜん大丈夫そーじゃねーよ! 嫌でも保健室連れてく! ほら、立てよ!」
「うぜんだよ」
 大沢木が腕をひゅんっ、と振ると、離れている日和の頬に傷が付いた。
「つっ!」
 まるで引っかかれたような線が三本、頬の赤い血が垂れる。
「……いや、駄目だ! 意地でも連れて行く!」
 日和は昨日何も出来なかった自分に責任を感じていた。彼が暴れだそうと、保健室で治療を受けさせる事に決めた。
「けっ、わーかったよ」
 大沢木は立ち上がり、ドアへと向かう。日和は胸をなで下ろし、委員長の肩を叩いた。
「付いてきてくれよ、南雲」
「え、あ、うん、いいよ。別に」
 突然気づいたように、彼女は日和の言葉に頷く。
「行こうぜ、いっちゃん――」
 彼が声をかけたそのとき、大沢木は廊下にある窓に足をかけていた。
「なっ! にっ」
「それじゃな、ひーちゃん」
 日和に向けて犬歯を出して笑いかけると、そのまま一気に外へと躍り出る。
「ここ三階だぞ!?」
 廊下にいた生徒たちが悲鳴を上げた。登校してくる生徒たちも何事かと上を見上げる。
 タタン、と軽快に着地した大沢木は、ポケットに手を突っ込むと、血まみれの格好で校門へと歩きだした。
 呆然としている日和は、何が起きたのか理解するのに、始業開始のチャイムが鳴るまで待たなければならなかった。




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