「二二拍手

二話 狂犬騒乱

/ 14 /



「日和! 今朝のニュース見たか!?」
 声をかけられた日和は、心ここにあらずといった様子で御堂を見た。
「みてねーよ」
「新聞でもいいぜ! すげーぜ! 殺人事件だ!!」
 グループの中でも最たる情報通の御堂は、常に情報に飢えている。高校生ながらに毎日夜23:00から放送している「今日一日のニュース」は欠かさないし、起きたら3つほど購読している新聞を斜め読みして情報を仕入れてくる。
 御堂は興奮気味に日和の前に新聞を置くと、一面記事を指さした。
「地元の珍走団の奴が殺されたってよ。それもすげぇむげぇ殺され方! 残虐非道にもほどがあるぜ!」
 正義感むき出しの言葉のようだが、嬉しそうなその表情から欠片もそんなものは見いだせない。
「この記事やるよ! プリントしてきたからたくさんあるんだ!」
 ご丁寧にプリントアウトまでしてくれたA3用紙に目を落とすが、頭の中に入ってこない。彼は殺人事件よりも、友達のことのほうが心配だった。
「あっ、志村これ見ろよこれ!」
 御堂は言いたいことだけ言うと、次の話し相手に移っていった。どうやらグループ全員に配るつもりらしい。
 日和はプリント用紙を適当に丸めると、ゴミ箱に向かってぽいと捨てた。
 見事に外れる。
 ま、いいかと思った。
「ちょっと春日くん!!」
 委員長がつかつかと歩いてくると、落ちたゴミを拾ってくれる。
 そしてわざわざ持ち主に返してくれた。
「……何すんだよ」
「ゴミ箱にものを投げ入れない! ちゃんと捨ててよね!」
「むー。なんだよー。いいじゃんかー。疲れてるんだよー」
「まだ一時間目も始まってないのに何で疲れるのよ!」
「……人間てのはな、生きてるだけで疲れるんだよ」
 日和としては真理をついたつもりだが、委員長には「はぁ?」といった顔をされた。
「ワケわかんないこと言ってないで捨てなさいよ。グータラ人間」
「……いーよオレ、グラタンで」
「なによーその態度ー!!」
 ガラリと扉が開く。
 教室にいる全員がぎょっとして目を剥いた。
 大沢木は扉を閉めると自分の机に向かって歩き、座った。
 呆気にとられている一同の中で、責任感の強いクラス委員長がいち早く立ち直り、グータラ人間を放り出して大沢木の元へ駆けつける。
「大沢木くん!? どうしたの?」



Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.