「二二拍手

二話 狂犬騒乱

「なんだ、よ、こりゃ」
 ねっとりと絡みつくような赤い血は、彼のものだ。
 自分の腹から、血が流れ出ている。
 腹から背中にかけて、穴が開いていた。
「ははっ! あったりぃ!!」
 無邪気な少年の声。
 かすむ視界の焦点を合わせると、林の中に子供が立っている。
 無地の黒シャツに黒ジーンズ。夜の闇に紛れるかのようなその衣装で、片手に見たことのない型の拳銃らしきものを持っている。
「て、めぇ」
 がはっ、と血が吹き出る。どうやら不味いところをやられたらしい。
「やった! これでパーフェクト!」
 煙をあげる銃口を突きつけ、少年は明るい声で叫ぶ。
「結構捜しちゃった。一人で歩いているなんて、不用心だね。お兄サン」
(俺の、捜してた、ガキ)
 プツン、と頭の中で線が切れる。
「おおおおおらァァァ!!!」
 雄叫びをあげて立ち上がると、血走った目を自分より背の低い少年へ向ける。
 数滴の血の雫が地面を赤く染める。
「会いたかったぜぇ、ガキィ」
「ボクはガキじゃないよ」
「どうでもいいんだよォ、んなことはァ」
 血の付いた手で顔をなでると、餌に飢えた狂犬が現われる。
「おまえこそ、俺の前に、一人で来るたぁ、人生終わったぞ?」
「くす! あはは!」
 少年は腹を抱えて大笑いする。
 血液が逆流してきたのか朱に染まった視界で、笑いすぎて涙まで浮かべた子供が、堪えきれない笑いを必死で押さえて言う。
「一人? はは? 何いってんのさ!」
 彼がそう言うと、ぞろぞろと近くの茂みから、奇妙な格好をした団体が現われる。
 帽子にサングラスにマスク。
「怪我しとるよォやのォ。え? ”狂犬”サマヨ」
 大きな図体の男が前に進み出ると、帽子とサングラスとマスクを外す。折れた歯が、にたりと笑みを浮かべた。
「よォも”怒羅権救利忌(ドラゴンスクリーム)”を潰してくれたのォ。おかげで先輩等に顔向けできへんわ」
 嫌な奴が出てきた。大沢木は虚勢を顔に貼り付ける。
「てめ、しぶてぇな」
「たかが一人のぺーぺーに(チーム)潰されたぁゆーのはホンマ痛いでぇ。失った信用を回復するためには、やった奴にきちんとやりかえさんとなぁ」
「ねぇ、早くやりなよ。虫の息じゃん」
 少年の物言いに、”怒羅権救利忌”の頭はギロリと腫れた瞼の奥から睨んだ。



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