「二二拍手

二話 狂犬騒乱

 大沢木は日和を一瞥すると、不良どもに鋭い視線を浴びせた。
「やべぇ! 逃げるぞ!」
(ヘッド)を背負え!!」
「テメーコノ覚えてやがれ!」
 瞬く間に去った彼らの背中を見送ると、大沢木はポケットに手を突っ込んで立ち去りかける。
「いっちゃん!!」
 日和は声をかけた。
「ああ?」
 大沢木が冷たい目を寄越してくる。
「会って欲しい人がいるんだ!!」
 日和は懸命に説得した。
 彼が生きてきた中で、これ以上に真剣になった瞬間はないと言うほどに。
「知らねえよ」
 短く吐き捨て、去っていこうとする彼の腰にすがりつく。
「な、なにしやがる!!」
「ついてきてくれるまで、はなさね−!」
「このッ!」
 ぼこっ、とボディーに衝撃が入る。
 腹の底から逆流してきた昼飯を、日和は踏ん張って堪えた。
「……いってぇ」
「放せ! 今度は本気で殴んぞ!」
「気の済むまで、やれよ」
 腹を決めた日和は、掴んだ腕に力を込めた。
 本気はどれくらい痛いのだろう。と思った。
「…………」
 日和にとっては、長い時間が経過した。
「いてーよ。ひーちゃん」
 組んだ腕を、ポンポン、と叩かれ、日和は自分がどれだけ堅く胴を挟んでいたのか気づいた。
 腕を放すと、少しだけ表情を柔らかくした大沢木と目が合う。
「昨日は悪かったな。きついこと言っちまって」
「いや、オレだって、声かけられなかったからさ」
 互いに照れたように笑いあうと、日和は手を差し出した。
「仲直り」
「よせよ。気色わりィ」
 日和が手を引っ込める気配がないことを知ると、大沢木はその手を握った。
「よっし!」
「泣かせるのう」
 その両手に、さらに無骨な手が加わった。
 横を向くと、金剛が赤ら顔を涙腺が切れたかのごとく涙で溢れさせ、両手を使って二つの手を包み込んでくる。



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