「二二拍手

二話 狂犬騒乱

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 今日も、大沢木は。学校を欠席していた。
 あえかに連れてこい言われたものの、当人が居ないのではどうしようもないのではないかと、日和は心の中で言い訳する。
 一体どのツラ下げて会えばいいのだろう。
 自転車を降りて商店街の中を歩きながら、悩める少年は悶々としていた。
「――おわっ」
 段差につまずいて転ぶ。
 隣を歩いていた人にぶつかった。
「すんません」
「オウ待てコラ」
 謝って立ち去ろうとすると、背中から嫌な声がかかる。
「人にぶつかっといて謝りもなしかい。坊主」
「最近のコウコウセイは目上の人への礼儀っちゅーモンを知らんのォ」
 顔を大きめのマスクとそれぞれ違った帽子をかぶった、一目で不良ととれる学生の方々が、サングラスの下から日和を見下していた。
「あ、謝ったすよ!」
「はぁ!? よく聞こえんのじゃボケ!」
「おまえの声は蚊の鳴くキンチョールか!」
 だっはっは、と仲間内のみでウケる。
「先輩にぶつかったら謝って財布の中身の全額渡す。これで晴れて見逃してくれんのや」
「もし可愛い妹かキレイな姉ちゃんがいたら紹介してくれてもいーぞ」
 だっはっはっは!
「か、金っすか? 今持ち合わせないんすよ」
 横の自転車をチラと見る。こいつを使って逃げられないだろうか。
「金がない。じゃ、決まりだな」
「決まりだ」
「な、なにがっすか?」
「ホントかどうか、ぶん殴ってから調べてやるよ!」
 大男の不良が腕を振りかぶる。
「うわっ!」と日和は顔をかばった。
「ぐおっ!」
「……?」
 今の悲鳴はオレじゃない。
 目を開けると、大男が地面に倒れていた。マスクと帽子とサングラスが外れて、青あざとハレモノだらけの顔が晒された。
「チンケな真似してんじゃねーよ」
「お、大沢木!!」
 不良たちがそろって恐怖の表情を浮かべる。
「……いっちゃん」



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