「二霊二拍手!」
二話 狂犬騒乱
「え、用事? あ、用事っすよね。ようじ、ヨージ……」
なぜ人は、追い詰められたときうまい言い訳が口から滑り出てこないのだろう。
何か思いつかないかと四方八方に目を飛ばし、二階のベランダにぶら下がっているピンク色の布きれへ吸い込まれるように辿りつく。
「ああっ! あんなところに師匠のパンティーがっ!!」
日和にとっては大発見だった。
「そうですか。それは良かったですね」
「はっ!?」
注意をそらすどころか、逆なでするような言い訳をしてしまった。
日和は自分の反射神経の鋭さと的確な指の動きを幾分後悔し、その場に縮こまったついでに正座した。
「すいませんでした」
地面に手をついて額を土にこすりつける。
「それで、昨日のことは許しましょう」
ほっ、と胸をなで下ろす日和。
「ですが、今貴方の叫んだ発言は、許しません」
「ひいいいィィィィ……」
彼の絶叫が小高い森の中腹にこだまし、それは長くを引いて夕暮れの空へと消えていった。
道場。
あえかは正座したまま、自分の弟子から昨日の出来事を正確に聞き出していた。
「それでは、貴方は友達のために、必要な修練を投げ出したというのですね?」
「ふぁい」
大きな拳の跡をくっきり頬につけた少年が、床に目を落として答える。
「友達のために協力しようとする行為は、咎められるものではありません。ですが、武器を持った相手に無防備に挑むのは愚策としか言い様がないでしょう」
今日の大沢木との会話も踏まえ、洗いざらいを日和は告白させられた。
「でも師匠。オレ、アイツのために何かしてやりたかったんです」
「良い心がけです。ですが、そのために貴方が犠牲になったとしたら、その友達はどう思うでしょうか」
「だからって、何もしないでいることなんて、オレには出来ません!」
「……やはり、わたしの目に狂いはありませんでした」
あえかの満足げな一言に日和は疑問符を浮かべる。
「この件は、わたしが一時預かります。貴方は自分の成すべき事をしなさい」
「成すべき事って」
「決まっているでしょう? 昨日の続きです」
あえかは楽しそうに笑った。
「それから、その友達と是非一度じっくりお話をしてみたい。彼をここに連れてきてください。出来れば、明日にでも」
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