「二二拍手

二話 狂犬騒乱

「いや、いい。疲れてるなら他に回そう。春日。おまえ解け」
「不意打ちくらっしゅ!」
 奇妙な叫び声を上げた春日は、目だけを恨みがましく委員長の方に向ける。
 予想に反して、意気消沈している様子の彼女の姿があり、春日はさらに驚いた。
「ちゃんと授業を聞いていたなら解けるはずだ」
「すいません。先生。質問いいでしょーか」
「なんだ。言ってみろ」
「サインコサインタンジェントってなんすか?」
「……おまえはそのまま立ってろ」
 何故にこの世の中はこんなに理不尽なのか、と春日は思った。
「じゃぁ、次……なんだ、また大沢木は休みか」
 素行不良の生徒にターゲットを絞ったのだろうが、あてがはずれて鳥角は「ふん」と鼻を鳴らす。
「まったく、どいつもこいつも神聖なる(まなびや)をなんだと思っとる」
 ガラリ。
 教室のドアが開き、目ツキの悪い人物が入ってくる。
 今日は骸骨が不気味に微笑むイラストのTシャツだった。
 内山たちが一様に蒼白な顔で昨日の志村たちの体勢をとる。
「お、大沢木! 今、何時だと思っとるんだ!」
 いきなり入ってきたことにビビったのか、少しだけ腰砕けになりながら鳥角が言った。
「うっせぇ。黙ってろジジイ」
「な、なんだと貴様――」
 大沢木が一瞥すると、鳥角はぷすー…と風船がしぼむようにおとなしくなった。
 自分の机には向かわず、日和の元へと歩いてくると、顔を近づける。
「ちょっとツラ貸せ」
 短く言った。




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