「二二拍手

二話 狂犬騒乱

「そいつと久しぶりに学校であったんだ。ずいぶん変わっちまっててよ。別人じゃないかと思ったけど、やっぱり同じだった」
「友達だったの?」
「ああ、友達だ。今だって、友達だ。そいつは、”狂犬”なんて呼ばれてさ、みんなに怖がられる不良になってた。一体どうしちまったんだろう、ってさ」
「それって、大沢木君の事?」
「ああ、そう……って、なんで知ってるんだよ」
「あ、なに、だって、この辺じゃ有名じゃない。不良だし!」
 慌てた様子でわたわた取り繕うみすずに、「まぁそうかもな」と納得する。志村たちでも知っていたからな。
「それで、その、彼がどうかしたの?」
「不良になってた」
 日和はそう言ってから、あれ、それはもう知ってるんだっけな、と思い直した。
「人間って、簡単に変わっちまうものなのかなー、ってよ。思っちまったワケよ」
「ふーん、珍しく頭使って悩んだんだ?」
「……わざと引っかかる言い方するよな、おまえって。どこかの誰かさんみてえ」
 日和の頭に浮かんだのは、委員長の顔だ。
「アイツ、どうやら人捜しているみたいなんだ。それも、危なそうな奴。拳銃なんか持った中坊って、この町に、つーか、この国に居ると思うか? 世界一安全な国なんだぜ?」
 それでも、日和は大沢木がウソをついているとは思っていなかった。あんなに怖いほどの目をして尋ねたからには、相応の理由があるに違いない。
「あんた、彼の友達なんでしょ? だったら手伝ってあげたらいいじゃない」
「手伝うって、おま――」
 言われて、日和はまさにその通りだと思った。
 だが、この女の言うことを素直に聞くのは気が引ける。
「――おまえ、でも、ホントにいたら、怖くね?」
「うっわー、腰抜け」
「なんだとぅお!?」
「ヤダ、キモーイ。腰抜けキモーイ」
 半眼で嘲るように口に手を当て此方を見てくる態度が癇にさわる。
「ぐぬぬぬ!! 怖いわけねえじゃん! やったろうじゃんか!!」
「キャーカッコイ。じゃ。あたしも手伝ってあげる!」
「よし、今から町に繰り出すぞ!」
「それじゃ着替えなきゃだね」
 まんまとみすずの口車に乗せられ、日和はあえかの道場を抜け出し、”銃を持った中学生”を捜すことになった。




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