「二二拍手

二話 狂犬騒乱

「あでやかな乙女が二人いると殺風景なここも華やいでおるものよのう」
 オレは人数外か、と日和は体勢を維持しながら思う。
「はい。腕が下がっています」
「……すんません」
「おー、あいもかわらず今日もムチ打たれておるか、若人よ。感心感心」
(感心じゃねー)
 金剛のことは、みすずもすでに春日と同じレベルには知っている。酔っぱらいの無駄飯ぐらいの居候、三拍子そろったろくでなしという意味だ。
「うむ。良い。実によい。若いと肌の張りが違う」
 しかもエロオヤジ。
「金剛様、年頃の女性に不埒な振る舞いはやめてください」
 あえかはみすずを後ろへかばうと、凛とした声を張り上げた。
「むぅ。見て減るものではなし」
「減ります。乙女の純情というものが」
「そんなものは知らん」
 師匠の後ろで縮こまっているみすずを見て、いい薬じゃねえか、と日和は思う。
「今日はなんのようですか? 春日君のような覗きが目的ならお帰りください」
「ぐは!」
 日和は胸に矢を打ち込まれたように一歩下がった。
「はい。動かない」
「……すんません」
「おぬしに用がある」
「はい。それならば」
「ここで話すにわけにはいかぬ内容でな。静かなところがよい」
「わかりました。では」
 師匠は弟子二人に、現在の修練を引き続き行うよう声をかけると、金剛とともに出て行った。
 残された二人は、互いに一瞬を目を交わした後、そっぽを向いた。
「邪魔しないでよ」
「こっちのセリフだ」
 一〇分くらい経っただろうか。道場には時計がないため、正確な時間はわからない。
「師匠、戻ってこねーな」
「……そーね」
 みすずも不安になったのだろう。頷いてくる。
「そういやさ、聞いていいか?」
「何よ」
 日和の深刻な様子に、警戒の色を強めてみすずが返事する。
「おまえ、中学の三年間って、どんな生活してたんだ?」
「……ふ、フツーよ! 学校行って、勉強して、それから」
「オレのツレにさ。三年間、音信不通だった奴が居るんだ」
 日和の注意が自分の過去に向いていないことを知り、みすずは胸をなで下ろす。



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