「二霊二拍手!」
二話 狂犬騒乱
/ 5 /
「おっそ〜い!」
第一声がそれかよ。
道場へ入るなり、美倉みすずが嫌みを言ってきた。
「うっせー」
「早くしてよ! あんたが居ないと、あえかさん教えてくれないんだから!」
美倉みすずが『真心錬気道』の門弟となり、一週間が立つ。女優を目指していると自負するとおり、正座した姿は師匠に負けず劣らず見栄えが良い。しかも、日和と同じ時間正座し続けているくせに、耐性があるのか足がしびれた様子もなく立ち上がる。
稽古の型についても、見本を見せる師匠の一挙手一投足を間違えもせず真似る。それでも納得がいかないのか、何度も試しては真剣にアドバイスを求める。師匠も快く引き受け、感心したりする。
いかん。このままでは一番弟子の座を追われることになりかねん。
「みすずさんは上達が早いですね」
聞きたくもなかった一言が師匠の口からついて出た。
「はい! ありがとうございます!」
屈託なく笑うみすずに頷き、あえかは日和に目を向ける。
「……春日君なんて、まだ壱の型すら出来ていないのに」
「ま、待ってください師匠! 俺のどこがいけないんすか!?」
日和なりに一生懸命練習しているつもりだが、いつまでたっても次の型に行くのを許可してくれない。
「なんですか、その肘は。九〇度を保ちなさい。足は肩幅ほどに開く。開きすぎです。重心が傾いています。脇を締めなさい。腹に力を込めて。もう一度」
「オレばっか」
「お喋りしない」
ピシャリと注意されて、とほほと呻く。
「才能ないんじゃないですか〜?」
美倉みすずが上から目線で横から野次を飛ばす。
「ぐぬぬぬ……」
「才能とは努力すること。悩むこと。誰でも出来る当たり前のことを、どれだけこなすかです。埋もれた才能は開花しません。芽は育てるものです。みすずさんも、人のことよりも自分のことに注意なさい」
しゅん、とうなだれたみすずを見て、日和は心の中で笑う。
けけけ。ざま見ろ。
「春日君はその体勢を三〇分間保持しなさい」
顔からサーっと血の気が引いていく。
「人は努力すればなんとかなるものです」
微笑みを浮かべる薄茶色の瞳の中に鬼が棲んでいる気がする。
「うぃーっく、やっとるのー」
のしのしと、ボロ切れの黒袈裟を着た坊主が、酒瓶を片手に無遠慮に入ってくる。
|
Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.