「二二拍手

二話 狂犬騒乱

 頭に浮かんだ見知った顔を一つ一つ検索してみるが、一致する奴は居なかった。グラビアマニアなら一人いるが。
「そうか、じゃぁもう用はねえ」
 そう言って、大沢木は背を向けた。
「ミリタリーオタクが、なんだって?」
 二人が振り向く。
 内山以下、彼らのグループ数人が、屋上のドアを開いて出てきた。
「モデルガンなら、集めてるぜ。俺はこう見えて、親が自衛隊でよ」
 モデルガンと自衛隊は関係ないだろ、と思いながら、日和は大沢木を見た。
「ほう」
 目に光が奔り、獰猛な犬歯がのぞく。
「それじゃぁ、てめぇに聞くとしよう」
「いっちゃん。オレも手伝うぜ。アイツにゃ昔からいいトコ潰されてたんだ」
「おまえは授業に戻れよ。真面目なんだろ」
「でも」
「そうだぜ。青ビョータンは引っ込んでろ」
 内山の軽口に飛び出そうとした日和を、大沢木が止める。
「こいつには手を出すなよ。俺に用があるんだろ?」
「ああ、よくわかってるじゃねえか」
「ひーちゃん、じゃぁな」
 背中を押され、日和は唇を噛んで出口へ向かう。確かに、武道を習い始めたばかりの自分では、体力自慢の運動部の連中にはかなわないだろう。
 内山の横を通り過ぎるとき、「奴の次はてめえだ」とささやかれ、思わず拳を握りしめる。
「ひーちゃん」
 大沢木に声をかけられ、振り向く。
「南雲にヨロシクな」
 優しい目だった。
 扉を閉めると、すぐに喧嘩が始まったようだ。
 校庭へと廊下を歩きながら、日和は決心した。
 もう少し真面目に、師匠の教えを受けよう。

 昼休みに屋上へ昼食を食べに来た生徒が、気絶している内山たちを見つけ、先生に知らせた。内山たちは頑強に「寝ていました」と主張し、春日は黙っていた。
 四時限目以降、大沢木の姿は学校から消えた。




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