「二二拍手

二話 狂犬騒乱

/ 3 /



 四時限目は体育の時間だった。
 ぞろぞろと連れだって更衣室へと向かう女子と違い、男子は教室で着替える。体操服に着替えた日和は、学生服を着たまま教室を出て行く大沢木を見た。
 志村たちに断わり、後をつけると屋上へと辿り着く。
 ドアをあけて周りを見回しても、誰もいなかった。
「なんだ、ひーちゃんか」
 上から声が聞こえる。
 見上げると、屋上に設置された貯水タンクの上で、大沢木が手を挙げている。
「いつからストーカーが趣味になったんだ?」
「趣味じゃねー!」
 タンクから飛び降りてくると、大沢木はポケットに手を突っ込んで歩いてくる。
「なぁ、なんかあったのか?」
「何が?」
 教室にいるときはひどく声をかけづらかい雰囲気だったが、屋上には彼ら二人しかいない。大沢木の瞳は、昔見たような優しいまなざしに戻っていた。
「なんでそんな格好してるんだよ。真面目だったろ、おまえ」
「グレたんだよ。理由ならいろいろあるさ」
 口にくわえたタバコを取り、灰を落とす。
「タバコ、やめとけよ。心臓に悪いぞ」
「肺に悪いんだよ」
 苦笑して、大沢木は友人の忠告通りにタバコの火を指ですり潰して消した。吸い殻はポケットに入れる。
「熱くないのか?」
「昔からこうさ。シケモクって言ってさ、こうしておくと、あとでまた吸える」
「なぁ、何があったんだよ」
 日和の質問に、大沢木は屋上の落下避けの金網に取りつき、外を見た。木に覆われた水蛭子山が見える。
「……3年、か。南雲も、変わってなかった。昔から、アイツおまえと喧嘩ばっかしてたな」
「はぐらかすなよ」
「悪い。ひーちゃんと話してると、決心が鈍る」
 大沢木は外を向いたまま、日和に言った。
「決心? 何の?」
「…………」
 向けられた目は、”狂犬”の目ツキだった。
「ひーちゃん。知り合いに、中坊で、拳銃を玩具にしている奴はいねぇか?」
「いねぇよそんなの! アブねえじゃん」
「モデルガンを集めてる奴でもいい」
軍事(ミリタリー)オタクの知り合いは、いない、なぁ」



Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.