「二二拍手

二話 狂犬騒乱

 畏れもせず、委員長が大沢木の前で胸を張って告げた。
「没収します!」
「……またこっそり見る気じゃ」
 聞こえないようにぼやいたはずなのに、委員長はくるりと半回転すると、真っ赤な顔で日和に怒った。
「そんなことしないもん!」
 大沢木はつまらなそうにそのやりとりを見ていたが、不意に目を大きく開けると、「南雲…」と呟いた。
「はい。何か?」
 冷静な表情を取り戻し、眼鏡をキラリと光らせる。
「あ、いえ、何でも」
 どもる不良に、好奇の目が向けられる。
「久しぶり、いっちゃん」
 片手をあげると、大沢木はガタッと席を立って驚いた。
「おまえ……ひーちゃんか?」
「みんなのスーパーヒーロー春日日和だ。ヨロシク!」
 ビシッ、と親指を立てた日和に、大沢木は暖かい目を向ける。
「変わってないな」
「……もう少し感情をさらけ出してくれないかな。こんな事をしたオレがものすごく馬鹿みたいに思えるんだけど」
 日和はそら寒い空気を振り払うと、大沢木の手をとって握手する。
「オレたち同じクラスだぜ? 仲良くしようや」
 大沢木は唇を歪めると、日和の手を払った。
「……俺は、変わった」
「いっちゃん?」
「あまり俺に関わるなよ。怪我するから」
 そう言うと、旧友から目を離し、『スランプ』に目を落とす。
 なぜかその姿は、日和にはとても小さく見えた。




Copyright (C) 2009 Sesyuu Fujta All rights reserved.