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「二二拍手

二話 狂犬騒乱

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「知ってるか、ヒヨリ。今日、あの”狂犬”が登校してくるんだってよ」
 朝、クラスの情報通である御堂がそう言ってきた。
「キョーケン? イヌ?」
「違げーよ。入学早々地元の珍走団を潰して停学になった奴。知ってるだろ?」
「そんな奴居たっけ?」
「バッカおまえ、今日その噂で持ちきりじゃん」
 志村のフォローに、御堂が頷く。
「磯垣中学で3年のトップ締めて番張って、以来負けなしの喧嘩百段。勝つためには何でもやるってんで、付いたあだ名が”狂犬”。有名じゃん」
「大沢木だよ。お・お・さ・わ・き」
「大沢木って、いっちゃんのことか」
「「いっちゃん?」」
 全員から疑問の目を向けられ、日和はうなずいた。
「小学校の時のオレの同級生。噂なんてガセだぜ? あいつくらいに友達思いの奴いねえよ」
 自分の言葉にうなずいている日和を、周りはうさんくさげに見つめる。
「嘘じゃねえよ!!」
 日和の記憶にある大沢木一郎は、屈託なく笑う幼い同級生だった。習字が得意で、字を書くのが苦手な日和はお願いして提出用の清書を2枚書いて貰ったことがある。後で先生にばれて大目玉を食らったが、なぜばれたのか未だに人生の七不思議の一つだ。
 だがそのときだって、大沢木は自分が悪いと日和をかばってくれたのだ。結果、なおさら日和のほうが悪者にされてしまったことは脇に置いておくとして。
「いい奴だぜ。いっちゃんは」
 日和は自信満々で言った。
 そのとき、ガラリと教室の扉が開いて、クラスメイト全員がそのほうを向く。
 制服の下に、カッターシャツでなく大きな目玉――イラストがでかでかと乗ったTシャツを着た髪の長い少年が、じろりと教室を睨め付ける。その鋭い目ツキはどう見てもカタギには見えない。
 教室が一瞬で緊張する。
 噂の不良少年は目を一度閉じると、半眼になって自分の机へと向かう。
 志村たちもカチコチと置物のようになり、はるか遠くの通りを歩いていく彼を見送る。
(目を合わせるな。殺されるぞ)
 妙な警戒心を起こして互いに石像と化すことを決意している。
 どすん、と静寂をやぶるように、前方に足が投げ出される。
「へっへっへ……」
 内山だ。
 このクラスでもっとも力の強い連中をとりまとめるグループのリーダー格。体育のサッカーなどに、日和も何度か悪質な反則をされたことがある。女子連中には分け隔て無く色目を使い、気味悪がられていることに本人は気づいていない。ようするに、クラスにとっての嫌われ者だった。小太りで中肉中背。寝不足なのか、目元はいつもはれぼったくクマがある。



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