「二二拍手

一話 少女霊椅譚

――三三分経過。

 彼は寝ていた。

――チッチッチッチッ。

 時計が時を刻む。
 黒い秒針は的確(てきかく)に時間を刻み、ながい針が一周しようとするころ、おかしな事が起る。

 平日の昼間。

 障子を(はさ)み、外から部屋のなかへ光が差しこむ。
 光は部屋のなかへ障子の格子(こうし)の影と、外で寝入る春日の影、そして、壁に寄りかかった笹岡の影をつくり出していた。
 そのひとつが、(うごめ)きだした。
 うねうねと(たたみ)の上を()い回り、宿主(やどぬし)からはなれると、そろそろと慎重に、布団(ふとん)へと近付いた。
 目的の場所へとたどり着いた影は、二次元であるはずのその様相(ようそう)を変え、こんもり盛りあがるとフルフルとふるえて上へと伸び、そこに手と足が生えた。
 ニョキリとあたままで生やすと、口に当たるべき部分が二つに裂けて、(いや)しい笑みを浮かべる。

「え……」

 ながい眠りから姫が目覚める。
 美倉みすずは、目の前にそびえるものを見て、まず何よりも恐怖を覚えた。叫び声をあげようとして口を開くが、声が出てこない。

 影の腕が伸びてくる。

 あれに(つか)まれたら終わりだと、本能が告げていた。
 目に入った場所に、自分のマネージャーが目を閉じているのを見つけると、なんとか声を絞り出そうとする。

「あ……あ……あ」

 声が出てこない。

 誰か。

 誰か。

 助けて。

 天井ががたりとかたむき、何者かが影と少女の前に降ってくる。
 (りん)とした表情。
 白と朱の巫女服。
「正体を現しましたね」
 轟あえかは美しい顔を微笑みで(いろど)り、声をかけた。




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