「二二拍手

一話 少女霊椅譚

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「ではこれより、(はら)いの儀を()りおこないます」
 巫女衣装(みこいしょう)に着替え直したあえかは、(さかき)に雷を()した白紙をいくつもぶら下げたお祓い棒を手にしながら言った。冷たい水に(ひた)ってほんのりと色づいた桃色の肌は、湯上(ゆあ)がりとは違った神聖な色気を日和に与えてくれる。
「一生ついて行くっす師匠ぉ」
「ではあなたは、部屋のまえで見張(みは)り役をしていなさい」
 言われたとおりに縁側(えんがわ)から部屋へとはいる障子(しょうじ)を閉め切り、腕を組んで仁王立(におうだ)ちで見張りに立つ。
「これでいいっすか師匠!」
「ええ。なにが起ころうと、そこにいてくださいね」
「命に代えても!」
 あえかは視線を残った笹岡と、いまだ起きる気配のない少女に向けると、
「わたしはこれより、祓いの儀のために離れます。この部屋は簡易の結界を張っていますので、外から侵入されることはないでしょう」
「はぁ、いったい何をするのですか?」
 あえかは微笑(ほほえ)えんだ。
「悪霊退治です」
 納得のいっていない表情で、笹岡(ささおか)生返事(なまへんじ)を返す。
「笹岡さんは、この部屋からでないでくださいね」
 そう言い残すと、自分も日和とは別の方向から出て行ってしまう。
 美倉みすずのマネージャーは、ふうと息をつくと自分も壁により()かった。一晩中探しまわったせいか、すぐに眠気(ねむけ)(おそ)われる。

――チッチッチッチッ。

 壁に(そな)えつけられた年代物の古時計が、一秒ずつ時を(きざ)む。

――一〇分経過。

 なにも起きなかった。
 日和は退屈(たいくつ)なあまり、おおきな欠伸(あくび)をする。

――二〇分経過。

 立っているのに疲れた日和は、あぐらをかいて外の景色をながめた。

――三〇分経過。

 代わり()えのしない景色と、心地よい風にほほをなでられ、無我(むが)境地(きょうち)がみえてくる。




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