「二二拍手

一話 少女霊椅譚

 立ち上がりざまに腕をとられ、足払いをかけられた日和は、後頭部を強打させて叫び声をあげつつ床をごろごろと転がる。
「あの」
「この少女には、式神が取り()いていました。こちらで(はら)いましたが、またおなじようなことが起るでしょう。もとを絶たなければなりません」
「式神?」
「わるい霊とお考えください」
「霊、ですか」
 不審(ふしん)なものでも見るように、笹岡はあえかをみる。
「今までも、おなじようなことはありませんでしたか?」
 その視線を受けても動じず、あえかは比較的優しげに声をかけた。
「今までも、ですか」
 考えこんだ笹岡は、はっとしたようにあえかを見た。
「思い当たることがあるのですね」
「ですが、みすずは気にするなと」
「でしょうね。霊障(れいしょう)を認めていない方にそういった話をすると、奇異(きい)な目を向けられますから。偏見(へんけん)はいつの世でもなくなりません」
 あえかは静かに告げると、笹岡が口をひらくのを待った。
「……最初は、冗談だとおもっていたんです。車のバックミラーにおかしなものが見えるとか、ずっと誰かに見られている感じがするとか。先ほども言ったように、みすずは勉学とタレント業を両立させようとしているため、スケジュールはとてもハードなものです。その疲れからだと思っていました」
 訥々(とつとつ)と語りはじめる。
「最近になって、『誰かが自分を追ってくる夢をみる』と言ってきたんです。たかが夢じゃないか、と笑って気にしなかったのですが、昨日撮影のためにむかえに来ると、突然「影が追ってくる!」と言って逃げだしました。それからはもう、撮影所には頭を下げるは、町中探してまわるはで、見つからなければ、興信所にまで頼もうかと」
「夢見が現実になった、と」
 愚痴(ぐち)混じりになりかけた笹岡の言葉を(さえぎ)り、あえかは考えこむように目をとじた。
「ゆめみ? ああ、そうですね。夢が現実になったというのでしょうか」
「春日君」
 あえかは立ち上がると、床で(うめ)いている日和に声をかけた。
「用意なさい」
「うきぃぃぃ……な、なにをっすか?」
(はら)い儀の準備をおこないます」
「祓いの儀!?」
 飛び上がった春日は、痛みすら忘れてあえかの前にひざまずく。
(みそぎ)の準備はおまかせください」
「ええ。おねがいします」
 そういうと、あえかは心持ち真剣な面持(おもも)ちで、二階の自分の部屋へのぼっていった。
「あの、ぼくはどうすれば……」
「ご安心めされ。お客人」
 日和は笹岡に向けて「一歩もそこから動いてはなりませんぞ」と(くぎ)を刺し、自分は二階の階段をのぼっていった。
 すさまじい叫び声があがり、階段を転げ落ちるような派手な音が聞こえ、それがおさまると静かな田舎町の風の音だけがさわさわと聞こえてきた。




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