「二二拍手

一話 少女霊椅譚

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「みすず!!」
 声をあげ、靴を脱ぐのももどかしく、縁側をのりこえるとやすらかな寝息を立てている少女のもとへと青年は()け寄った。
 みすずって、委員長とおなじ名前なんだなぁ、とぼんやり思いながら、横にいる師匠にたずねる。
「いいんすか?」
「すこし、様子を見ましょう」
 昨日の晩から少女を保護していることを告げると、青年は礼を言ってあえかに頭を下げた。
「ありがとうございます。見ず知らずの町で、こんな親切で美人なかたに助けてもらえるなんて」
 美人なのは当然だが、他人に言われるとすこしムカつくなぁ、と日和は考えた。
「ぼくは、この子のマネージャーで、笹岡徹(ささおかとおる)といいます」
「マネージャーって、この子、芸能人なんすか?」
 日和の問いに、マネージャーは照れくさそうに笑って答えた。
「まだ売りだし中だけどね。キミくらいの年だと、ちょっと有名かもね」
「そういやぁ、つい最近見た顔のような気はするなぁ」
 スヤスヤ眠る顔をじぃっと見てみる。ふっくらしたくちびる――点々とあるそばかす――くるくるウェーブのかかった巻き毛――童顔だ――頭のなかに、唐突(とうとつ)に友人の顔が浮かぶ。
「あーーーーーーーーーーーーっ!!」
 突如(とつじょ)絶叫(ぜっきょう)をほとばしらせた日和に、あえかと笹岡がなにごとかを顔を向ける。
「美倉みすず! ”みっちー”じゃん!!」
「あ、やっぱり気づいてなかったか」
 青年は困ったような、どこか誇らしいようなほほえみを浮かべて、自分のプロデュースする少女をみる。
「なぜだ! なぜ気づかなかったんだオレ! 志村に自慢できたのに!!」
「いや、あまり言わないでくれるかな」
 今度こそ迷惑そうに顔をゆがめ、笹岡がつよく止める。
「彼女は今、勉学とタレント業を両立しているんだ。下手に騒ぎたてると金のタマゴがマスコミの連中につぶされてしまう。それだけは()けたい」
「そうか。オレは”みっちー”を背負ったのか」
 フフン、とひとり物思いにふける日和に、笹岡はあえかに困ったような目を向ける。
「あとできつく言っておきますからご心配なさらず。それより、昨日何が起ったか、お聞かせ願えますか? すこしはお手伝いができるかと思います」
 いつも姿勢の正しいあえかは、まっすぐな目で笹岡をみてそう告げた。
 ほほを赤らめ、笹岡が視線をそらす。
 その挙動(きょどう)を日和は見逃さなかった。
「てめー! オレの師匠に色目つか――うきゃっ!」
「黙りなさい」



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