「二二拍手

一話 少女霊椅譚

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「あった! 良かった!」
 果たして、昨日置き捨てた場所に日和の自転車は無事転がっていた。近くにゴミの回収場があるが、誰もそちらに移動はしなかったらしい。
 ついでに修理屋まで持って行き、修理をたのむ。明日には直ると言われ、自転車はそこに預けて「さぁどうするか」と悩む。
「いまさら学校戻るのもめんどくせえな」
 かといって、いつもよりはるかに早い時間にあえかの道場へ行っても、「学校はどうしたのですか?」とやんわり(たず)ねられでもしたら窮地(ピンチ)だ。
 サボりました。
 などと口にすれば叱られるのは目に見えていた。
「……ゲーセンでひまつぶしするか」
「キミ」
 肩を叩かれ、ふりむくと、昨日見かけた顔が白い歯をみせて笑っている。
 少女を追いかけていた青年だった。
「また()ったね」
「あ、こんちわ。なにか用すか?」
「いやね、あれから、彼女が一つも見つからないんだ。また情報がないかい?」
 青年は気さくに(たず)ねてくる。
「ああ、それなら――」
(!)
 そういえば、あえかが気になることを言っていた気がする。
「ちょっと質問していいすか?」
「なにかな?」
「あんた、人間か?」
 苦笑し、青年は(ほが)らかに答える。
「ああ、もちろん。足が()けてみえるかい?」
 幽霊だからと言って身体が透けているとは限らないことを、経験上日和は知っている。
「あっ、あれ」
 と言って、青年の背後を指さす。
「え?」
 不思議そうな顔で振り向いたその肩を押しだす。
 おどろいた顔をしてたたらを踏むのを見て、日和は「人間だ」と納得する。
「なにをするんだ」
「いやー、オレ霊感高くって、本物と偽物の区別もつかないんっす。だから、確認」
「確認? ふざけないでくれないか?」
 先ほどまでとは打って変わって、目をつり上げて怒りだした青年に、日和は手を振って落ち着かせようとする。
「あれ? ひょっとして、外の人っすか?」
 ”外の人”っというのは、この町の外部に住む人間のことを指す。より厳密(げんみつ)に言うと、この町の事情を知らない人間が、いわゆる”外の人”という(わく)に当てはまる。この町の住人なら、突然こんなことをさせてもワケを話せば理解してくれる。



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