「二二拍手

一話 少女霊椅譚

「厄介なんですか?」
「ええ、相手は人間です」
 あえかはそれで終わったように、口をとじた。
「相手が人間だと、まずいんですか?」
自我(じが)意識に欠けた悪霊(あくりょう)邪霊(じゃれい)と違い、狡猾(こうかつ)な知恵をもっています。式神をもちいて彼女を疲弊(ひへい)させたあと、捕まえるつもりだったのでしょう」
 やすらかな息をあげる少女の髪をはらう。
「その子、夕方にも見ましたよ」
「こっちを向かないこと」
 あえかに(くぎ)を刺され、日和はまた首を暗い外に向けた。
「それは本当ですか?」
「マジっす。あれからずっとだったら、四時間くらい逃げつづけていたんじゃないっすかねえ」
「ひどいことを」
 あえかのつぶやきに、日和は悪寒(おかん)を感じて身をすくめた。
「身につき得た能力を他人を傷つけるためにもちいる。これは(さば)かれねばならない悪行(あくぎょう)です。この女性はどれほど恐怖に身をふるわせたことでしょう」
「で、でも撃退(げきたい)できたし、もう来ないんじゃ?」
「式神を(やぶ)った程度ではたいして効果はないでしょう。……呪詛返(じゅそがえ)しのほうが、良かったかもしれません」
 意味はわからなかったが、あえかがとても恐ろしいことを口にしているような気がする。
「彼女はしばらくここに()めおきます。外を歩かせるには危険ですから」
「そうっすね。オレもいますし」
「あなたは帰りなさい。親御様(おやごさま)も心配されているでしょう」
「別にかまやしないっすよ」
「いけません。あなたが思っている以上に、両親はわが子のことを心配しているものです」
 子供(あつか)いしないでほしかったが、今のあえかに(さか)らう気はなかった。
「了解っす。それじゃ、また、明日来ます」
「気をつけてお帰りなさい」
 あえかの言葉に見送られ、日和はうしろ髪を引かれつつも神社を後にした。




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