「二二拍手

一話 少女霊椅譚

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「もう駄目だ。もう歩けねー」
 あえかの家の縁側(えんがわ)にたおれこんだ春日に「よくがんばりました」とねぎらいの言葉をかけ、あえかは少女を居間に()いた布団のうえへ寝かせた。
「ひどい汗ですね。何か()くものを用意しないと」
「あっ、オレとってきます」
 春日はすばやく立ちあがると、勝手知ったるわが家のように、奥の部屋のタンスの引き出しからハンドタオルを持ってくる。
「……なぜあなたが知っているのですか?」
「こまかいこと気にしっこなしですよー」
 ははははと笑う日和に冷たい目を向け、あえかは少女の服を脱がせにかかる。
 その様子を、じぃぃぃぃぃ……と見ている。
「……春日君。わかっているとは思いますが」
「あっ、そっすね。濡れていたほうがいいっすよね。(おけ)に水()んでくるっす」
 風呂場から桶を拝借(はいしゃく)すると、裏手にある井戸でつるべ落としを引きあげて水をうつし、なみなみ入った水桶(みずおけ)を部屋へと持ちこむ。
「ささっ、おもう存分(ぞんぶん)拭いてやってください」
「でて行きなさい」
「えー! 運んだのオレなのに!」
「関係ありません」
 日和は疲れた身体を思い出したかのように、のろのろと外へ去っていく。
「さ、これでよいでしょう」
 あえかは気をうしなっている少女の服を()がして下着だけの格好にすると、しぼったタオルで身体を手早く拭き、自分の古着に着替えさせた。
「すこし、大きいかしら」
 身長170近いあえかのパジャマは、少女に着せると子供が大人の服を着ているようなサイズだ。
 すずしい風を入れたほうが良いと考え、縁側の扉をガラリとひらく。
「……なにをしていますか」
 間男がどこかへ飛び立とうとしていた。
 否。
 春日日和(かすがひより)はしこたま目を泳がせ、この場にいた理由を必死になって弁明(べんめい)した。
 あえかの耳の防音機能は完璧だった。
 数分後、顔中ぼこぼこになり、縁側のふちにちょこんと正座させられた日和が口をひらく。
「なんだったんすかね。あれ」
「わかりません。追われている以上、何らかの騒動に巻き込まれたと考えるのが自然でしょう」
 乱れた(えり)をととのえ、あえかはすこし(とげ)のある言葉をかえす。
「しかも式神となると、少々厄介(やっかい)かもしれません」



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